ヤンマープレミアムレッド

農機、建機、船舶などの製造と販売を手掛けるヤンマーは、2012年の創業100周年を機に、統一されたブランドカラー「ヤンマープレミアムレッド」による製品展開を行っています。同カラーの量産化にあたっては、日本ペイント・インダストリアルコーティングスの技術が発揮されました。当時を知るヤンマーホールディングスの新村誠様、池内導様、土屋陽太郎様にお聞きした、開発秘話をお届けします。

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農業に革新をもたらしたヤンマーのコンセプトトラクターとは?

創業100周年を迎えた翌年の2013年、ヤンマーは「プレミアムブランドプロジェクト」を始動させ、次の100年に向けた事業展開を大々的に発表しました。

プロジェクトを推進するための取り組みの中身はブランドイメージの統一、デザインと開発力の強化、そしてブランドの浸透・ファン層の拡大など。その一環として、同社は「新しい農をクリエイトする」というスローガンのもと、これまでの常識を覆すようなコンセプトトラクターを開発します。実際の農作業では長時間トラクターに乗車することが多く、操作性や乗り心地を徹底的に追求しました。このトラクターは、2013年の東京モーターショーにも出展され、自動車展示会としては初めてトラクターが展示され、画期的なニュースとして取り上げられています。

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トラクターの製造においてデザイン性の追求が世界的な潮流となる

出展されたコンセプトトラクターは、イタリアの名車・フェラーリのデザイナーとしても知られる世界的な工業デザイナーの、奥山清行氏がデザインを手掛けています。
若い世代の就農者にも受け入れられるような洗練されたデザインは、農機製造の世界に新しい価値観をもたらしました。このコンセプトトラクター以降、農機におけるデザイン性の追求は世界的な潮流となっています。

新しい「赤」は深みのある、高級感あふれるカラーリング

プレミアムブランドプロジェクトの始動とコンセプトトラクターの発表に伴い、同社のシンボルカラーである「赤」も一新されています。新しくなったブランドカラーは「ヤンマープレミアムレッド」で、従来採用されていた赤と比較して深みが格段に増し、きらめくような光沢が車体のフォルムを際立たせる高級感あふれるカラーリングが特長です。色の選定に携わったのは、当時奥山氏のデザイン会社に所属され、現在、ヤンマーホールディングスのブランド部の土屋様で、「どこにもない赤、まったく新しい赤を生み出したいと考えていました」と振り返ります。

色相を再現するにあたっての課題を、日本ペイントはどのように解決したのか?

しかし、「ヤンマープレミアムレッド」の色相を塗料で再現するにあたっては、いくつかの壁が立ちふさがります。

同カラーの深みや光沢感は、デザイン段階では2液型のウレタン系塗料によって発現させていたのに対し、実際に農機を製造するヤンマーの工場では、乾燥時間を始め様々な問題から1液型のメラミン系塗料でなければいけないという前提があったのでした。2液型のウレタン系塗料は、表現できる色相の幅が広がるかわりに乾燥に時間がかかり、1液型のメラミン系塗料は色相に一定の制限があるものの、加熱による乾燥が可能なため時間を短縮できるといった違いがあります。また、「ヤンマープレミアムレッド」は膜厚が薄く、さらには工場ごとに下地の色が異なるため、色相としての品質を均一に満たしつつ隠蔽性や耐候性を確保するための技術的な難しさもあったのです。

これらの課題をクリアするために、当社では創色の過程において顔料、樹脂、添加剤、溶媒といった基本的な成分の配合を見直し、練り込みにも工夫を加えるなどして、求められる品質に見合った塗料の開発にこぎつけます。あわせて、農機が実際に生産される工場の各種設備を想定し、下地と上塗りの間に中塗り1枚はさむ塗装工程もご提案しました。塗料そのものの品質はもとより、生産ラインの安定稼働までを視野に入れて解決策を考え抜いたことが、ヤンマーの皆様からの信頼獲得につながる一番の要因になったのかもしれません。

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顧客視点に基づいた提案で、溶剤塗料と粉体塗料のハードルを乗り越える

生産部門に籍を置いていた池内様によると、「弊社はそれまで、生産拠点の違いから、トラクターは溶剤塗料、コンバインは粉体塗料でカラーリングを行っていましたが、生産拠点の移管があり、コストの観点からトラクターにおいても粉体塗料による塗装の必要性が生じました」とのこと。続けて「溶剤塗料と粉体塗料で仕上がりに差が出ることは理解していたので、この色を粉体でも出せるかどうか、日本ペイント・インダストリアルコーティングスの皆さんに相談を持ち掛けたことはよく覚えています」と、当時のことを教えていただきました。

粉体塗料は焼きつけて塗膜形成するため高い温度が必要で、また、溶剤と比べてむらになりやすいという技術上の課題があります。この課題をクリアするために、当社は「ビリューシア」という特許製品を提案しました。超微粒子によって塗膜外観に優れた美しい仕上がり肌を実現するこの製品は、「ヤンマープレミアムレッド」の量産化にあたって溶剤系塗料に劣らない品質を実現し、ヤンマー様が懸念する課題を解決するターニングポイントとなったようです。

現在の課題を真摯に見つめ、新しい提案を模索し続けたい

「ヤンマープレミアムレッドをお願いする塗料メーカーを選定する過程では、日本ペイント・インダストリアルコーティングス以外の方々にもお声掛けをしていました」農機製造の責任者としてプレミアムブランドプロジェクトに携わっていた新村様は、メーカー選定のいきさつを、このように率直に打ち明けます。その上で「塗膜において難易度の高い粉体塗料を模索する中で、粒子径が小さいということは、カラーリングの品質を均一に保つことが確実に期待できる。そんな期待を抱くには十分な要素でした」と、ブランドカラーを依頼するにあたっての当社技術に対する信頼を話していただきました。

今後のお客様の生産活動に関しては、水溶性の塗料、粉体塗料など、SDGsに配慮した対応が求められています。使用塗料の有効成分を高め、廃棄量を減らす取り組みや二酸化炭素削減技術を通じて、様々な産業分野のメーカー様をサポートするための日本ペイント・インダストリアルコーティングスの取り組みは、これからも続いていきます。

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