気候変動

気候変動に関する考え方
グループ方針
気候変動は、当社グループの事業やコミュニティに影響を及ぼしています。温室効果ガス排出の削減を通じて、気候関連リスクを管理し、機会を獲得していきます。
当社グループはグループ方針に基づき、温室効果ガス(GHG)の排出量を抑制し、かつ気候変動の進行がもたらす事業リスクを最小化する取り組みを行います。また塗料の製造過程におけるエネルギー削減、再生可能エネルギーの積極的な利用は、GHG排出量抑制という気候変動対策のみならず、エネルギー資源枯渇の課題解決にも貢献できると考えています。
TCFD提言に基づく報告
当社グループは2021年9月、「気候変動に関連する財務情報の開示に関するタスクフォース(TCFD)」による提言(最終報告書)への賛同を表明しました。MSVの実現に向けて、気候変動関連施策や情報開示の拡充に取り組んでいます。

ガバナンス
当社グループは「アセット・アセンブラー」モデルのもと、2022年よりサステナビリティ体制を一新し、本社主導ではなく、ビジネスとの結び付きをより強化する自律的な体制に変更しました。取締役代表執行役共同社長の直下に、気候変動を含むマテリアリティをベースとした5つのグローバルチームを構成し、グループ一体でサステナビリティ戦略を進めています。気候変動に関する取り組みの進捗や提案をグローバルチームから共同社長に向けて直接報告し、共同社長は取締役会に随時報告することで、取締役会はサステナビリティに関する活動を監督しています。
戦略
当社グループの戦略にとって重要な気候関連リスク・機会を特定し、財務影響の算定に取り組んでいます。気候変動対策への関心が高まる昨今の情勢から、地球温暖化対策税が引き上げられ、操業時にかかるエネルギーコストの増加や脱炭素化のための設備投資、技術開発に係る追加的なコストが発生する懸念があります。
また、異常気象に起因する洪水などの事象の重大性と頻度が上昇した場合、当社グループの工場が被災し、生産が停止することなどにより、売上が減少するリスクがあります。
一方で、当社グループの技術力を生かしてCO2排出量削減に貢献する製品を開発し、新市場に参入するなど、ビジネスに直結させることも検討しています。
こうした気候変動関連リスク・機会の分析を踏まえ、当社グループの中長期成長戦略の策定につなげています。
当社グループのエネルギー消費量は、原単位ベースで他の多くの製造業と比較して大きくないと認識していますが、顔料などの原材料を分散・安定化させる工程における冷却などのエネルギーが必要なことから、総量としては依然として相当量のエネルギーを消費しており、エネルギー消費量の積極的な削減を図っています。
当社グループは、操業に直接影響する最大のリスクとして炭素税を確認しており、炭素税の価格上昇によるコスト増加が想定されるため、回避策として再生可能エネルギーの調達に向けた検討も開始しています。既に炭素税が導入されている国もあり、各国のネットゼロ目標に向けた段階的な税率引き上げが見込まれています。
気候関連シナリオについては、当社グループは4°Cシナリオと2°Cシナリオについて検討を行いました。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界の脱炭素化が進んだ場合(世界が2°C上昇シナリオを達成した場合)の当社グループへの影響額、IEAによる世界の脱炭素化が現状の政策のままと仮定する成り行きシナリオ(4°C上昇シナリオ)を想定した場合の影響額のそれぞれについて、CO2排出量が現時点と同等として試算した結果、一定の費用が生じることが判明しています。当社グループの今後の事業拡大に伴う排出量の増加の可能性も考慮すると、炭素価格が操業コストに与える影響はさらに大きくなることが懸念されます。
一方、地球温暖化は当社グループの主要顧客を含めた社会全体が関心を持っており、物理的・規制的なリスクが伴う一方で、戦略的に対応することで当社グループの事業を拡大する機会として結び付けることができます。具体的には、船舶の燃費を向上させる製品、自動車製造工場でのCO2削減に寄与する製品、路面の温度上昇を低減する製品の販売拡大などを機会として捉えています。
例えば、高反射性舗装を実現するATTSU-9ROAD®はヒートアイランド現象を抑制し、CO2排出量削減に貢献することが期待されます。当社グループでは、道路舗装塗料の市場成長率に関する見通しのもとで、収益貢献度などの財務的な影響を算出しています。
気候変動シナリオ分析
リスク | 機会 | |
---|---|---|
1.5°C | 炭素価格設定や温室効果ガス排出量削減目 標などの規制の変化とその影響※1 | サステナブル製品市場の成長 (低炭素製品の普及・製品の性能向上など)※2 |
気候変動への適応と脱炭素化による 調達費用の増加 | 気候関連のビジネスチャンスを捉えた新製品・ サービスの開発 | |
低炭素社会への移行期における 顧客と消費者の期待と行動の変化 | — | |
4°C | 操業・サプライチェーンに影響を及ぼす極端 な気象事象(洪水など)、気候への影響(水ス トレスなど)の増加 | サステナブル製品市場の成長 (極端な気温に対応した低炭素製品の普及・ 製品の性能向上など) |
性能劣化による製品クレーム、ブランド毀損 (極端な気温による影響など) | 気候関連のビジネスチャンスを捉えた新製品・ サービスの開発 |
※1 IEAのネットゼロシナリオに基づき、当社グループに影響を与える炭素価格は2030年に43億円、2040年に74億円になると試算しています(前提条件:2030年の炭素価格は、先進国が130米ドル、特定の新興国と途上国が90米ドル。2040年は先進国が205米ドル、特定の新興国と途上国が160米ドル。為替レートは2022年実績(1米ドル=132.1円)を使用)。当社グループは、温室効果ガスの排出量削減などの取り組みを通じて、こうした影響を回避する方針です。
※2 日本グループの自動車用事業では、低温焼付製品を含む低炭素製品の売上が2023年から2025年にかけて約3倍に増加すると見込んでいます。
リスク管理
共同社長直下のグローバルチームにおいて、当社グループの直接操業にかかるリスク(原料使用量・製造工程のエネルギー、水、CO2)やそれ以外のリスク(「ユーザーの使用時のニーズ」や「製品機能へのニーズ」)などの観点から、重要度を含めたリスクを特定・評価しています。
特定・評価されたリスクと機会について、グローバルチームは目標の設定やアクションプランの策定を行い、共同社長に報告・提案します。パートナー会社においては、上記目標やアクションプランに沿った事業計画などを自律的に策定し、対応を進めます。共同社長は重要性などに応じて取締役会にアクションプランや目標設定などを報告・提案します。取締役会は目標やアクションプランについての助言・監督を行うほか、必要に応じて当社グループの目標設定を促します。
気候変動リスクに関する企業全体の総合的なリスク管理への統合についての詳細はこちらをご覧ください。
指標と目標
気候変動への対応を加速させるため、各国政府の掲げるネットゼロ目標やカーボンニュートラル宣言に沿った排出量削減活動に取り組み、グローバル各地域でネットゼロに貢献していきます。具体的には、再生可能エネルギーの導入、省エネルギー設備や電化設備への置換などにより、市場が拡大する新興国においても原単位当たりの排出量削減に注力していきます。
こうした取り組みにより、日本グループ、DuluxGroup、Dunn-Edwardsは2050年に、NIPSEAグループでは2060年にそれぞれネットゼロ達成を目指しています。スコープ3については、日本グループに加えて、DuluxGroupにて算定を実施しており、グローバルでの算定範囲を拡大しています。
当社グループのCO₂削減目標(スコープ1,2)
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目標と改善点
各PCGは2022年、気候関連の影響やリスクと機会に対する個別目標と改善計画の策定に継続して取り組みました。各PCGの目標と計画の進捗は下記の通りです。
パートナー会社グループ(PCG)ごとの目標
PCG | 目標 | 2022年進捗と2023年計画 | |
---|---|---|---|
温室効果ガス 排出量 (スコープ1, 2) |
エネルギー消費量 | ||
NIPSEA グループ |
2025年:15%削減 2060年:ネットゼロ |
2025年: 8%削減 |
|
DuluxGroup (太平洋) |
2030年:50% 2050年:ネットゼロ |
2030年: 再生可能電力 消費量50% |
|
DuluxGroup (欧州) |
- | - |
|
日本グループ | 2030年:37%削減 2050年:ネットゼロ |
- |
|
Dunn-Edwards | - | - |
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実績
2022年は、温室効果ガス排出量(スコープ1, 2)と総エネルギー消費量に加え、再生可能エネルギーと再生可能電力の消費量が増加しました。各PCGの個別の要因に加え、DuluxGroupによる欧州のCromologyとJUBの買収が大きく影響しました。
温室効果ガス排出量(スコープ1, 2)は、生産量1トン当たり14%増加し、55.6キログラムになりました。全体的に排出量が増加したのは、Cromologyの買収に加え、これまで計上していなかったNIPSEAグループの生産拠点からの排出量データの報告開始、DuluxGroup(太平洋)でロックリー工場が洪水被害を受けたことに伴う生産量の減少、複数の事業部門での生産構成比の変更などによるものです。
総エネルギー消費量は、生産量1トン当たり27%増加し、0.51キログラムとなりました。総エネルギー消費量に占める再生可能エネルギー消費量と総電力消費量に占める再生可能電力の消費量の割合は、それぞれ4.1ポイント増の4.6%、9.3ポイント増の10.3%となりました。総エネルギー消費量が増加したのは、温室効果ガス排出量(スコープ1, 2)の増加要因と同じです。再生可能エネルギーと再生可能電力の消費量が増加したのは、Cromologyと日本グループによる再生可能電力の購入拡大に加え、NIPSEA中国、DuluxGroup(豪州)、JUBセルビアによる太陽光発電設備の設置などによるものです。
温室効果ガス排出量(スコープ1, 2)(kg/生産量t) ![]()
※ 日本グループ、NIPSEAグループ、DuluxGroup(Cromologyは2022年~、JUBは除く)が 対象 再生可能電力消費量 総電力消費量に占める割合(%) ![]()
※ 日本グループ、NIPSEAグループ、DuluxGroup(Cromology、JUBは2022年~)が対象
温室効果ガス排出量(スコープ3)(t-CO2) ![]() |
DuluxGroup (太平洋)+日本グループ / 2022
※カテゴリ8,10,14は該当する活動がないためゼロと算定 |
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各PCGにおける2022年実績と前年からの変化、主な要因については下表の通りです。
パートナー会社グループ(PCG)ごとの実績
PCG | 炭素 | エネルギー | 主な要因 | ||
---|---|---|---|---|---|
温室効果ガス 排出量 (スコープ1, 2) (kg/生産量t) |
総エネルギー 消費量 (GJ/t) |
再生可能 エネルギー 消費量 (総エネルギー消費量に占める割合) |
再生可能電力の消費量 (総電力消費量に占める割合) |
||
NIPSEA グループ |
48 (+17%) |
0.32 (+28%) |
1.6% (+0.9pp) |
2.8% (+1.6pp) |
|
DuluxGroup (太平洋) |
146 (+4%) |
0.99 (+11%) |
1.6% (+0.7pp) |
3.0% (+1.4pp) |
|
DuluxGroup (欧州)※1 |
30※2 | 0.8 | 31.60% | 66.20% |
|
日本グループ | 153 (-7%) |
3.31 (-2%) |
1.9% (+1.9pp) |
7.3% (+7.3pp) |
|
Dunn- Edwards | - | 0.19 (-5%) |
- | - | - |
※1 2022年買収以前の実績がないため、前年比データはなし
※2 JUBを除く
参画しているイニシアチブなど
当社は、日本化学工業協会を通じて、化学業界として1997年度から2012年度まで経団連の「環境自主行動計画」に参画し、省エネルギーを推進し、CO₂排出を抑制する活動を継続してきました。2013年度からは、経団連の「低炭素社会実行計画」に参画し、(1)国内事業活動からのCO₂排出抑制、(2)低炭素製品・技術の普及によるサプライチェーン全体でのCO₂排出抑制を進める主体間連携の強化、(3)日本の化学製品・プロセスの海外展開による国際貢献、(4)2020年以降の実用化を視野にいれた中長期的な技術開発である革新的技術の開発の4本柱で地球温暖化対策を進めています。
当社は、日本化学工業協会の目標や取り組みに賛同し、塗料業界をけん引する企業として、取り組みが進捗するように協力しています。
また、日本化学工業協会に所属することで、国の政策に対し、当社の戦略が合致しているかを確認しています。当社の主な外部との直接的/間接的な活動は、共同社長直下のグローバルチームにおいて当社の気候変動戦略と一致してるか確認します。
万一、一貫性がないことが発見された場合、政策に関与する当社関係者やステークホルダーと再協議を行い、一貫性を確保するまで本プロセスを再度繰り返すことになります。承認が必要な項⽬に関しては、グローバルチームで議論したのち共同社長に報告し、取締役会の承認プロセスを経るなど、戦略・方針との整合性を図ります。