グローバル
2022.07.01

鉄道車両の奥深い塗料の世界

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ゆったりとくつろぎながら流れる景色を思う存分楽しめる鉄道の旅、最近は “鉄道に乗る”ことが旅の目的という人も増えているようです。その旅を演出する車両を支えている塗料の世界をご紹介いたします。

2022年4月29日に大阪~奈良~京都を結ぶ近畿日本鉄道でデビューした観光特急「あをによし」が本日の主役です。(公式webサイト https://www.kintetsu.co.jp/senden/aoniyoshi/
平城京時代に最も高貴な色とされた紫檀(したん)色(※1)のメタリック塗装をほどこした車両は、日本ペイント・インダストリアルコーティングスが創色(※2)しています。

※1:紫檀色:紫檀色とは、紫檀の材のような深く暗い赤みの紫色のこと
※2:お客様の商品コンセプトやカラーイメージをもとに、時代動向や当社のノウハウを組み込んで塗料色彩を設計する意味(日本ペイントグループの造語)

あをによし

鉄道車両における塗料の役割

鉄道車両の塗料は、美しく魅せる「美観」機能と、過酷な外部環境から車両を守る「保護」の機能の二つがあります。塗料の色によって、車両に彩り、つや、滑らかさ、模様等を施しデザイン性を高め、車両の個性を引き立て、景観に華を添えるとともに、塗装することで、夏の高温多湿から厳寒に至る四季を通じた太陽光、風雨、塵埃(じんあい)などから車両を保護する役割もあります。

観光特急「あをによし」の創色

奈良の都の美しさをイメージして新しい特急車両に名付けた「あをによし」は、古都・奈良に掛かる枕詞です。車両は「奈良の和」の美しさ、尊さを表現したデザインで、その創色は1300年の歴史がある「いにしえ」の紫というテーマから、紫檀メタリックという色相の塗料を新たに生み出しました。 車両用の塗料の創色には、3つのソリューションの実現が欠かせません。

①車両の価値を高める意匠性
「あをによし」の紫色は、鉄道車両では採用が増えたメタリックカラーがベースとなっています。これに基づき、近鉄観光特急の象徴として、運行する地域・風景に溶け込み、唯一無二の色を再現することを考慮し、意匠性を向上させていきます。当社が創色した紫檀色のメタリックの塗料は、見る角度や太陽光の差し込み方によって、色の見え方が変化します。光が当たると赤紫に、影になると青紫に、その車体の色彩と表現が変わっていくことも、悠久の歴史を感じさせる演出です。

②耐久性と安全性
車両の外装を構成している鋼板は、そのままでは空気中の水分や雨など外気にさらされ錆が発生しますが、塗装することで、錆の発生を抑制できます。また、塵埃などによる傷や塩害などから守る目的もあります。下塗り塗料や中塗り塗料、上塗り塗料と何層にも重ねて塗装を施すのはそのためです。
長距離・高速で走行する車両は、風圧や雨等の外部からの負担も大きくなります。そのため、塗料の剥離がないよう素材と塗料の密着性保つ必要があります。密着性を実現するコーティング技術は、当社が長年車両用塗料で培ってきたノウハウになります。
塗装の品質を長く保ち、耐久性を備えるために、安全性に問題ないか、何度も試験を繰り返し、その性能を向上させています。

③車体色の再現性
車両は、人手によるエアースプレーで30ミクロン~60ミクロンの膜厚で塗装されます。スプレー塗装は、メタリック色の微妙な色調を見分けながら、大きな面積をムラなく塗る高度な技術が求められる作業です。仕上げ技術を高めるために、技能研修の実施も行います。
一方、塗装作業者の技術、施工環境に左右されることなく、目標の色に塗装できるような塗料の開発も重要なポイントです。誰が塗っても均一な色彩を表現できるように、メタリック色を構成する光輝材の選定と配合を工夫し、色味や光の反射率を安定的に出せるように開発しています。

チームで創り上げる

車両用塗料の開発は、鉄道会社とともに当社の製造、技術、営業、デザインチームが一体となって1年以上かけて進められます。実車両に塗装されて運行する最後のプロセスまで、「乗車するお客様に愛される色、旅の思い出として心に刻んでいただける色にしよう」という両者の強い思いで世の中に送り出された近鉄の観光特急「あをによし」がいよいよ誕生です。見かけられた際、乗車された際には、少し塗料の世界観も感じてもらえると嬉しいです。

近畿日本鉄道 鉄道本部 企画統括部ご担当者コメント
「あをによしは、奈良に向かう観光列車としては初めての列車で、電車に乗った瞬間から奈良を感じられるように、正倉院宝物に使われていた、天平文様をイメージした柄や色使いをデザインに反映しました。
車体に使用したメタリックの塗料は、色の再現がとても難しく、塗装作業者の塗装技術とともに、ムラなく塗装できるよう塗料そのものの開発が大切です。サンプル色は実際の車両にも塗装し、調整を何度も繰り返します。あをによしに採用した塗料は、色ときらきらとした輝きが絶妙で、関係するメンバーが満場一致で納得の色となりました。
お客様からは太陽光が当たる屋外でも、地下の駅でも、今までにないきらきらとしたメタリックの車体が綺麗だという声も多く頂いています。
美しい車体とこだわりの内装、そして窓から見える景色を、多くのお客様に楽しんでいただけたらと思います」。

当社と近畿日本鉄道は、今回の観光特急「あをによし」の紫檀メタリックをはじめ、名阪特急「ひのとり」の深みのある赤と琥珀色が織りなすメタリックレッド、団体専用列車「楽」の漆の色をモチーフとした漆メタリックも開発しています。(写真提供:近畿日本鉄道株式会社)

今後も、塗料メーカーとして、安心してご利用いただける品質とさらなる意匠性の向上を目指します。さらに長く美しさを保持できる耐久性の向上や環境へ配慮した塗料開発を行い、鉄道車両が織りなす風景を、鉄道会社と共に創り出してまいります。

日本ペイント・インダストリアルコーティングス webサイト
https://nipponpaint-industrial.com/


紫檀は堅く緻密で耐久性に優れていることから、高級家具材として愛好され貴族や王室の家具として使用されていた。正倉院御物の『螺鈿紫檀五絃琵琶 』が有名。(ただし、古い時代には色名としては見られない)
(提供:近畿日本鉄道)

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