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2024.05.07

開発ストーリー:ターゲットラインペイント ―「社会課題に貢献できる製品を作りたい」という想いから生まれた自動運転用特殊塗料の開発秘話

#製品・事業 #社会課題解決 #プロフェッショナル #工業用塗料

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開発ストーリー:ターゲットラインペイント ―「社会課題に貢献できる製品を作りたい」という想いから生まれた自動運転用特殊塗料の開発秘話
塗料の持つ新たな可能性への挑戦

日本ペイント・インダストリアルコーティングスが実用化に向けて動く「ターゲットラインペイント」は、路面に塗装するだけで自動運転を可能にする特殊な塗料です。
自動運転車両に搭載されたセンサーがこの塗料を認識・追従することで、自動走行を実現します。道路に塗装されたラインを認識して走行するため、GPS等が入りづらい場所でも自動走行が可能になるだけでなく、インフラの整備が容易であることから、自動運転の導入コストの削減が望めます。また、センサーが認識できると同時に、目視ではアスファルトと同化する色の実現により、道路の路面標示と誤認することもありません。

 

この塗料は、2018年、新しいビジネスを立ち上げるというミッションの下発足した、開発チームによって生まれました。
マーケティング・技術が一つのチームを組み、社会課題の解決をキーワードに、新たな塗料の使い道を模索し、商品化に向けて突き進む開発秘話をご紹介します。

 

 

社会課題の解決を目指して
なんでもありからのスタート

「社会課題に貢献できる製品を作りたい」という想いが、この開発ストーリーの始まりでした。
チームメンバーは、社会課題の解決をキーワードに、まずは分野を絞らずに幅広くアイデアを出し合いました。
また、将来どのようなことが起こるのかという予測と同時に、社内の知見の棚卸しも行い、社会的な課題と、当社の技術とのマッチングを行っていきました。
マッチングを進める中で、様々な開発テーマの一つとして自動運転が上がりました。
当初は自動運転に関する知識もまったくなく、当社の塗料が貢献できることがあるのかという点も不透明なまま、プロジェクトが動き始めました。


まずは、自動運転に関する知識を身に付けるため、本やセミナーから情報を得て、また、自動運転に詳しい大学の教授に話を聞くところからのスタート、
「多くの知識者と話をしながら、アイデアを洗練させていくことができた」と担当者は当時を振り返ります。
また、様々な伝手をたどる中で、自動運転車へ改造する工程を見に行く機会を得ることができました。
実際に自動運転車を見せてもらう中で、「自動運転に使われるセンサーは、ほぼ同じ波長のセンサーが使われている」ということを見出しました。
「このセンサーの波長をコントロールすることができれば、塗料を使って、自動運転の何か役に立つことができるのではないか?」
ここから、自動運転技術を支える塗料開発に少しの光が見え始めました。


当社は塗料で「色」を表現する技術を持っています。色の見え方はどの波長を反射させるかで決まるため、この「色をコントロールする技術」を応用すれば、自動運転におけるセンシング能力をあげることに貢献できるのではないかと考えたのです。
こうして、仮説が具体性を持ちはじめ、徐々に塗料が自動運転の持つ課題を解決する可能性を見出しはじめました。
こうして得た気づきから、1年かけてコンセプトを固め、同時に、技術チームは、「このコンセプトをどのように塗料で実現すればよいのか」という検討を開始しました。

 

コネクション0から半年で約30社にプレゼン

マーケティングチームは、大学や大学ベンチャー、そして専門企業など自動運転の開発先を訪問し、当社の考える自動運転への塗料活用について提案を行いました。
売り込みを始めた当初はなかなか引き合いがなく、半年間での訪問先は約30社に上りました。

「はじめは、こちらからの提案の精度も低く、的外れなものもたくさんあった。だから、『面白いね』だけで終わってしまうこともたくさんあった」と、担当者は振り返ります。
そうして、自動運転のテーマを立ち上げてから約1年、ようやく明治大学との共同研究プロジェクトがスタートします。
このプロジェクトがスタートしてからは、教授、学生と技術担当者が毎週一緒に意見を出し合い、当社の塗料をどのように使っていくかの検討を進めました。
技術面では、路面に使用する塗料ということから、滑りにくさや耐久性など、目指すべきレベルを設定することから始まりました。
「未知市場という大きなハードルに対して、品質項目・スペックなどの目標値が無いため自分達で設定しながら、商品開発もしていくことは苦労の連続だった。」と技術者は話します。

 

実証実験のあと、風向きが変わった

自動運転システムが認識しやすい塗料を作るための技術的な改良を進め、そして公道に塗ることへの法規制や関係各所への調整などもクリアして、
ようやく21年、初めての実証実験が対馬市にて行われました。
実証実験当日までは、何度も何度も対馬市まで通い、塗料の施工やさまざまな調整を行いました。
そして、実証実験当日、「自動運転の車両に乗ってみたい」と約100名の方が集まりました。中には、お子様が乗ってみたいというので、と遠くからお子様を連れてこられた方も。
自分たちの開発した技術に多くの人が興味を持ってくれたことに、チームは大きな喜びを感じました。

また、実証実験後のアンケート結果より、センサーからは読み取れるが人の目には見えにくいという点がターゲットラインペイントの特徴である中、
参加した6割の人が「線が見えにくい」、4割の人は「線に気づかなかった」と答えました。担当者は、「これはいけるのではないか」と確信しました。

そして、実証実験のリリースから約1か月、この取り組みを知った自治体、自動運転バスを検討するバス会社などから、少しずつ問い合わせが増え始め、
現在ともに実証実験を行う自治体は9都道府県に上ります。(2024年4月時点)

 

開発を支えた2人のベテラン技術者

技術チームには、塗料に詳しいスペシャリストと、アイデアマンで新規事業のスペシャリストという2名のベテラン技術者がいました。
若手中心のチームメンバーに、この2人の支えがあったからこそ、ターゲットラインペイントを実用化に向けて進めることができました。

「塗料に携わり早28年が過ぎました。今回のターゲットラインペイントは、世の中にない仕組みであり、既存品が存在せず比較するモノがないことがこれまでと一番異なる点であり、最も苦労した点です(現在でも試行錯誤しています)。技術メンバーの努力と苦労の賜物ですね。ターゲットラインペイントの活用が広がることによって、安心安全な交通社会へ塗料が貢献できている姿を想像しています。」
「入社以来29年、新規事業に関する開発業務に携わっていました。新規事業開発のテーマに取り組む際、ゼロから技術をつくると時間もコストも膨大にかかるため、参入したい領域を解析し、自社のシーズ技術の活用を考えます。今回は、マーケティングのメンバーとともに、ターゲットラインペイントのコンセプトを作ったのですがそこに至るまでが大変でしたが、非常に面白くもありました。」

ターゲットラインペイントで
自動運転の安全性をサポートしたい


当初は、塗料が貢献できるのかという点も不透明なままスタートしたプロジェクトでしたが、担当者たちの「社会課題の解決に塗料で貢献したい」という熱い思いから、可能性を見出し、近い将来の実用化に向けてチームは進み続けています。
「自動運転に安全・安心を届けられるよう、自動走行ルートにターゲットラインペイントがスタンダードに施工されていることを目指していきたい。」
特に、山林やビルが立ち並ぶ都心などGPSが届きにくい場所において、運行をサポートする技術として活躍できる技術であると担当者は意気込みます。
また、「様々な場所に自由に施工できる」という塗料の柔軟性を生かし、道路にラインを塗装するだけでなく、トンネルの壁や天井、ガードレールに塗装するなど場所の特性に合わせて活用していくことで、新たな可能性にも挑戦していきます。

 team member

ターゲットラインペイントの製品技術についてくわしくはこちらをご覧ください

自動運転の実現を可能にする ターゲットラインペイント

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