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2023.03.15

プロトン型ゼオライトの新たな抗ウイルス性を発見 ――安価かつ変色しない抗ウイルス新材料としての社会実装を期待――

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2023年3月15日
国立大学法人東京大学大学院工学系研究科
 日本ペイントホールディングス株式会社

プロトン型ゼオライトの新たな抗ウイルス性を発見
――安価かつ変色しない抗ウイルス新材料としての社会実装を期待――

発表のポイント
◆ プロトン型ゼオライトは銀イオン(Ag⁺)などの金属カチオン担持なしでも高い抗ウイルス性を有することを発見しました。
◆ 現在、抗菌・抗ウイルス材料として商用化されているゼオライトは、金属カチオンが担持されていますが、高価であることや変色が課題となっていました。
  今回の共同研究を通じてプロトン型ゼオライトは抗ウイルス性と耐変色性を有することを発見しました。
◆ 将来的には安価かつ変色しない抗ウイルス材料として、より多くの場面への活用・利用拡大が期待されます。

画像1図1:ウイルス破壊のメカニズム

発表概要
国立大学法人東京大学大学院工学系研究科の脇原徹教授を中心とした研究グループと日本ペイントホールディングス株式会社は、共同研究においてプロトン型ゼオライト(注1)が、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスに対して優れた不活化効果があることを発見しました。これにより、プロトン型ゼオライトはこれまでにない新たな抗ウイルス材料として有望であると期待され、将来的には安価かつ変色しない抗ウイルス材料として利用されることが期待されます。
本研究は、2020年5月18日に締結しました産学協創協定に基づく共同研究の一環によるものです。


発表内容
〈研究の背景〉
長らくCOVID-19が猛威を奮っている昨今ですが、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスを含む病原性ウイルスの感染経路として、直接的な飛沫感染の他、ウイルスを含むエアロゾル(注2)が付着した、あるいは感染者が触れた壁面や手すり、ドアノブやスイッチなど生活環境で接触する器具表面を経由したウイルス感染も起こると考えられています。そのため、これら表面や手指のアルコール消毒が推奨されています。しかし、アルコールによる消毒は効果が持続せず、十分な感染予防に至っていないのが現状です。このような状況を背景に、本研究グループは器具表面において抗ウイルス効果を発揮するような材料およびコーティングの開発を目指した研究を行っています。

結晶性多孔質材料であるゼオライトにおいて、特に銀イオン(以下Ag⁺)が担持されたゼオライトは抗菌活性を示すことが知られており、多くの実用例があります。ゼオライトの抗菌性に関する研究は数多く存在する一方で、抗ウイルス性に対する研究はまだ少ないのが現状です。またAg⁺を担持した抗菌ゼオライト材はAg⁺の使用による材料の高コスト化に加え、材料自体の変色が問題でした。そこで抗ウイルス性と耐変色性を両立するゼオライトに関する研究を行いました。

〈研究の内容〉
プロトン型ゼオライトに対して、インフルエンザウイルスを用いた抗ウイルス活性試験によって抗ウイルス性を評価しました。また、材料と接触後のウイルスを透過型電子顕微鏡で観察し、ウイルス破壊のメカニズムを考察しました。

結果、金属カチオン(注3)担持なしのゼオライトと比較して、プロトン型ゼオライトとインフルエンザウイルスを接触させた場合は、ウイルス感染価(活性なウイルス数)が検出限界以下まで減少しました。(図2)さらに金属カチオン担持なしのゼオライトと接触したウイルスは球状の形を保っていたのに対して、プロトン型ゼオライトと接触した後のウイルスは破壊された様子が観察されました。(図3)

上記の結果から、プロトン型ゼオライトによる抗ウイルス効果は、ウイルスとの接触によりウイルスのエンベロープの一部が破壊され、ウイルス全体の破壊へとつながることが示唆されました。
画像2画像3

          図2:インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス試験結果                  図3:ウイルスの透過型電子顕微鏡画像                    

プロトン型ゼオライトは、銀イオン(Ag⁺)などの金属カチオン担持なしでも高い抗ウイルス性を有する、これまでにない新たな抗ウイルス材として有望な材料であることがわかりました。今後も抗ウイルス材料およびコーティングの開発研究を通して将来的にプロトン型ゼオライトが社会に実装され、安価でかつ変色しない抗ウイルス材料として利用されることにより、ウイルス感染症のリスク低減に大きく貢献していくことが期待されます。

【ご参考】
〈社会連携講座について〉
本研究は、東京大学と日本ペイントホールディングス株式会社との産学協創協定における具体的活動として設置された社会連携講座「革新的コーティング技術の創生」の共同研究テーマの一つとして推進されました。この社会連携講座は、2020年10月1日~2025年9月30日までの5年間、設置しています。

〈関連のプレスリリース〉
「新規抗ウイルス材料のハイスループットスクリーニング系を共同開発」(2022/04/28)
https://www.nipponpaint-holdings.com/news_release/2022042801/

「東京大学、ダイキン工業、日本ペイント 呼吸器感染症の感染リスク低減対策のための教育現場向け参考ガイドを共同で策定」(2021/10/12)
https://www.nipponpaint-holdings.com/news_release/2021101201/

「新型コロナウイルスおよびアルファ変異株を不活化する 新規抗ウイルス性ナノ光触媒を共同開発」(2021/07/15)
https://www.nipponpaint-holdings.com/news_release/2021071502/

「国内初!塗料の講座開設、東京大学と日本ペイントホールディングスによる社会連携講座の開設」(2020/11/24)
https://www.nipponpaint-holdings.com/news_release/2020112401/

発表者                                          
東京大学大学院工学系研究科     
    脇原 徹 (教授)    
    伊與木 健太(講師)
    木村 優香(修士課程:研究当時)

日本ペイント株式会社 技術統括本部 開発部     
    佐藤 弘一(開発部長)     
    宮前 治広(商品開発グループマネージャー)     
    江上 侑希(商品開発グループ)

用語解説
(注1) プロトン型ゼオライト:水素イオンが固定されたゼオライト
(注2) エアロゾル(aerosol):気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子と周囲の気体の混合体
(注3) 金属カチオン:プラスの電気を帯びた金属のこと 

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