- グローバル
- 2026.03.10
継承と革新が生み出す ― 未来をひらく製品・技術 Vol.1 気温上昇という難題に挑む。市場の常識を変えた遮熱塗料「サーモアイ」
世界各地で異常気象が見られる今の時代、日本ペイントグループの事業展開においても「環境貢献」が重要なキーワードであることは間違いありません。その取り組みを象徴する製品の一つ、遮熱塗料「サーモアイ」は2009年に発売されて以降、戸建て住宅や工場、倉庫の屋根・外壁などに採用され、省エネや節電、二酸化炭素排出量の削減に貢献しています。
「日本中の屋根を遮熱塗料で塗り替えたい」その想いが原動力
地球温暖化の影響により、平均気温は上昇の一途をたどっています。あらゆる産業において、その対策が進んでいますが、塗料分野では、2000年代を境に遮熱機能が顕著に求められるようになりました。日本ペイントの遮熱塗料「サーモアイ」は、そんな背景から誕生した環境配慮型の製品です。
開発が本格的に始まったのは2000年代の後半でした。その頃、屋根用遮熱塗料の市場は環境課題への社会的な関心の高まりを受けて急成長していました。企画立案を手掛けた担当者は「あくまで個人的な肌感覚ですが年率で言えば130%、ときには150%ほどの伸びを見せていました」と振り返ります。
日本ペイントは「ファインシリコンベスト」という屋根用塗料のオプションの一つとして遮熱機能を付与した製品を展開していたものの、この製品は住宅用途のイメージが強く、工場や倉庫向けなど、より広範囲に提案できる、市場のニーズに合致した製品が求められていました。そこで、遮熱機能をメインにした新たな製品の立ち上げに着手することになったのです。「日本中の屋根を私たちの遮熱塗料に塗り替えて、地球温暖化を少しでも食い止めたいと本気で考えていました」開発当初のモチベーションを担当者はこう言葉にしています。



課題解決のヒントは塗装現場にあった
開発にあたってまず取り組んだ課題は耐候性の向上でした。遮熱塗料は特殊な調色をしており、従来の遮熱塗料ではそれに起因して耐候性が低下する課題がありました。紫外線や風雨などの影響により塗膜が劣化し、塗装面から色がついた粉が出てきてしまうチョーキング現象を現場で目の当たりにした開発担当者は「顔料に課題があるかもしれない」と、顔料選定の重要性に気付きます。また、期待される耐用年数よりも比較的早期にこのチョーキング現象が起こっていたのです。
この課題をクリアするために、一つ一つの顔料が持つ光学特性や耐候性への影響を精査し、顔料の最適な組み合わせを模索しました。サンプルを試作しては太陽光や温度、湿度、風雨などの屋外環境因子を人工的に再現する促進耐候性試験機にかけて劣化度合いを検証し、トライ&エラーを繰り返した結果、顔料の組み合わせが塗膜の耐候性や赤外線の透過性に大きく影響していることを突き止めました。このことが、耐候性の課題を解決するだけでなく、日射反射率を向上させる“赤外線透過テクノロジー”を見出すことにつながりました。


遮熱機能向上のポイントは、“ダブル反射と赤外線透過テクノロジー”
「サーモアイ」の最大の特徴は、上塗りと下塗りの複層塗膜によるダブル反射テクノロジーにより、温度上昇の主要因となる赤外線を効率良く反射することです。一般的な黒色の屋根用塗料では赤外線の波長領域における反射率が5%前後にとどまるのに対し、「サーモアイ」は同じ黒色でも60%を超えるレベルにまで引き上げることができます。
遮熱機能の発現においては、上塗り層で反射できない赤外線をなるべく吸収させずに透過させることで、下塗りの白色塗料でもしっかりと反射し、その相乗効果により機能を最大化させる赤外線透過テクノロジーを駆使しています。太陽光の熱エネルギーは吸収されれば熱が生じてしまいます。いかに遮熱機能を最大化させるかを突き詰めてたどり着いたのが、単層ではなく複数塗膜で反射するという発想でした。このダブル反射と赤外線透過テクノロジーは、遮熱塗料の最適解を求める、開発担当者たちの飽くなき思考プロセスを経て生み出されたのでした。



豊富なカラーバリエーションが、市場に革新をもたらした
これまでの屋根用塗料は濃彩色が主流でしたが、淡彩色から濃彩色まで全40色のカラーバリエーションを揃えたことや、日射反射率の高い白色を下塗り塗料に使うという発想は業界に強いインパクトを残しました。「サーモアイ」の登場により、反射率の高い淡彩色の需要が一気に拡大し、市場に大きな変化をもたらしています。全40色を揃える過程では調色士たちの奮闘もありました。指定した色・つやで塗料を調合することを調色と言い、その作業を担う彼らは数万色を目視で見分けられる特殊技術を持つ職人です。これまでの経験を生かして、従来とは異なる調色手法についても、最初は苦労しつつも迅速に修得しました。彼らの尽力もあり、需要の広がりに応えられる豊富なカラーバリエーションを実現したのでした。


数値に裏付けされた導入効果で注目を集める
試行錯誤を重ねて完成した遮熱塗料「サーモアイ」は、満を持して2009年に市場投入されました。戸建て住宅や工場、倉庫の屋根・壁などの幅広い物件に採用されており、省エネや節電、室内空間の快適性向上に貢献しています。例えば工場への施工事例であれば、屋根の表面温度は約20℃低下、室内温度は最大約2.5℃低下。住宅施工では電気代が約30%カットされるなど、その導入効果は、多くの案件で数値的に実証されています。
上市から十数年が経った今、屋根用塗料を必要とする販売店や施工店の顧客から第一に名前が上がることも珍しくありません。JIS規格を取得していることもあり、市場からは確かな信頼を獲得しています。また、昨年6月の労働安全衛生規則の改正により熱中症対策が義務化されたことを受け、工場などの快適な労働環境づくりにも役立つと期待が高まっています。
環境負荷低減への貢献を果たす「サーモアイ」は、工場や倉庫を所有する製造業、物流業、食品関係といった幅広い業界から注目を集めており、遮熱効果のシミュレーションに対する問い合わせも増えています。昨年には二酸化炭素排出量を高精度で算定し、情報提供するサービスも開始しました。塗料製造時、塗装時、塗装後などの各段階における二酸化炭素排出量を算定することで、環境対応に取り組む企業を支援し、カーボンニュートラルの実現に貢献します。




メンバーの想いは一つ。環境課題への本気の姿勢を次の世代に継承し続ける
現在、「サーモアイ」のチームが進めている取り組みは遮熱機能の見える化です。ウェブサイトなどを活用したプロモーション活動も積極的に行っています。「2050年のカーボンニュートラルに向けて、国土交通省が建築物のライフサイクルアセスメントの実施を促す制度を開始することを盛り込んだ基本構想が決定されたというニュースを追い風に、環境貢献効果を市場に広く訴求していきます」とマーケティング担当者は意気込みを語ります。
屋根用遮熱塗料向けのJIS規格は「サーモアイ」の発売後間もなく策定されており、開発担当者は規格の原案作成にも携わっていました。「日射反射率をはじめとした品質の基準を明確にし、業界全体の健全な発展に寄与することができました」と、その手応えを語ります。企画立案者は「モノづくりを担う私たちには、環境課題に対する危機感や使命感のような気持ちが常にあります。だからこそ、本気で取り組んでいます。周囲の声に左右されることなく、自分の信じた道を貫いていくマインドを次の世代にもしっかりと伝えていきます」と力を込めました。市場と社会、そして未来にソリューションを提供し続けるべく、日本ペイントグループは環境課題への取り組みをさらに加速させていきます。遮熱塗料「サーモアイ」は、そのターニングポイントになる製品と言えるかもしれません。

