取締役会長
(Nipsea International Limited(ウットラムグループ)Director)
ゴー・ハップジン
日本ペイントホールディングス株式会社が掲げる「株主価値最大化(MSV)」は、当社の唯一のミッションであり、取締役会および経営陣の価値観・判断基準として共有されています。2018年以降のガバナンス改革により、独立社外取締役が過半数を占める現体制に移行し、取締役会では各議案についてMSVの観点から慎重に審議・決議を進めています。
私は取締役会長として、長年にわたるビジネスの経験を生かして助言を提供していますが、最終的な意思決定は取締役会全体による議論に委ねています。
現在の日本ペイントの執行体制である若月氏とウィー氏による「共同社長体制」は、極めて有効に機能していると見ています。このような共同社長体制は世界でも稀なケースですが、2人のバックグラウンドが相互補完的であることも相まって、日本ペイントにおける意思決定の迅速性と有効性を高めています。
大株主であるウットラムグループの存在もまた、上場企業と大株主との関係において稀な事例だと思います。長期的な株主価値の最大化を目指す以上、大株主と少数株主の利害は完全に一致しており、上場企業としての資本調達力と非上場株主の力を合わせることで、日本ペイントの強い成長の原動力となっています。日本ペイントにとって有益なことは、ウットラムグループにとっても有益であり、まさにWin-Winの関係であるのです。
株式市場からの調達が求められる買収の機会が巡ってきた場合には、ウットラムグループの議決権の希薄化は、その持ち分の経済価値の向上、すなわちEPSが十分に上がる限りにおいては何ら問題ではなく、大株主として強く支援します。さらに重要なことは、仮に株式発行による資金調達を実現するにしても、現在の少数株主の皆様のサポートが不可欠であること、言い換えれば株主の皆様の利益を最大化し続ける必要がある、ということです。
これらの点に関しては、これまで私が繰り返し述べていることであり、基本的な考え方に変化はありません。
今回、新たに触れたいのはAOCの買収です。本件は、「アセット・アセンブラー」モデルを体現する事例であり、塗料事業の買収よりもバリエーションを含めローリスクながら、初年度からEPSを30%も上昇させる魅力的な案件でした。しかし、発表前と比較して株価は上がっておらず、多くの投資家が本件買収を評価していません。このような状況下、2人の共同社長が、AOCの業績貢献を実績で示すとともに、皆様との対話で理解促進に努めていきますが、私としてはAOCのような“Low Risk, High Accretion”の買収を継続していきたいと考えています。
私自身、1979年から日本ペイントに携わり、その発展に46年関わってきました。この間、アジア市場への進出やグローバルな成長戦略を牽引してきた経験を生かしています。今後もMSVに資する買収にはターゲットの選定から資金調達を含む実行まで常にリスクとリターンのバランスを把握しながら進めていきます。また、買収した会社の経営陣のモチベーションの向上のために報酬含めしっかりと見守っていくとともに、現執行部のサクセッションとモチベーションの向上についても、日本ペイントの会長として引き続き貢献していく所存です。
2025年6月30日
2023年
「アセット・アセンブラー」としての優位性について
日本ペイントは、経営の唯一のミッションを「株主価値最大化(MSV)」にしています。昨年もお伝えした通り、MSVはまずはステークホルダーへの法的・社会的・倫理的責務を十分に果たしたうえで、残存する株主価値を最大化することであり、株主の優先順位は法律上も実務上も一番下位であることを前提にした考え方です。その上で、「企業価値の向上」と「株主価値最大化」の違いであったり、如何に「ステークホルダー資本主義」という言い方が可笑しいか、といったことも十分に考慮した上で、私達はMSVが特に上場している企業の唯一のミッションであるべきだと確信しています。ステークホルダー価値最大化という偽善的な理論が流行している今日の社会に逆行しているかもしれませんが、繰り返しこの考え方は世に問い続けたいと思います。現在、当社では取締役会をはじめオペレーションの意思決定者に至るまで、このMSVをベースに議論・判断するようになっており、若月氏やウィー氏も常にMSVを軸に執行の判断をしており、であればこそ共同社長という世界でも稀な体制が、二人の相互補完的なバックグラウンドと併せて極めて有効に機能していると見ています。
そのミッションに到達する手段としての「アセット・アセンブラー」モデルは、共同社長メッセージで説明の通り、極めて優位性の高いプラットフォームであり、株主価値の最大化に邁進できる体制が整ったものと感じています。その優位性の源泉は三点あり、一に低いファンディングコスト、二には買収した子会社に干渉することなく、強くEPSに寄与させる当社の能力、そして、三にそうした経営への共感を通じて世界中の経営クラスのタレントを惹きつける力、が挙げられると思います。こうした私たちの「連邦経営」の有効性については、買収した各社の社長とのエンゲージメントが深化し、買収後各々の会社が業績の拡大を加速させている中、私自身確信を深めています。
買収時のファンディングの優位性については、MSVをEPSの最大化とPERの最大化とに分解する考え方に基づくと理解しやすいと思っています。まずEPSにおいては、例えば相対的に低いPERの会社を買収対象とすれば、仮に全額株式による買収であっても基本的にEPSは増大するわけですが、そこに低利の負債を最適なレバレッジレベルで組み込むことにより、さらなるEPSの増加、すなわちEPSの最大化を図ることが可能となります。また、高成長でなくてもリスクの低い安定的な業績を有する対象会社を低いPERでM&Aを通じて繰り返し積み上げていくことにより、当社EPS増大は継続的に遂げることができ、そうした積み上げに基づくEPS向上力に対する市場からの信任がすなわちPERの最大化に資することになります。このように株式と負債を効果的に組み合わせ続けることで、当社の成長力にかかるポテンシャルは負債比率などの制約を取り払うことができ、ある意味上限はありません。その過程でEPSが継続的に最大化されるのであれば、ウットラムの議決権が低下することは全く問題なく、そういう意味でも、改めてウットラムの利害は少数株主と全く一致していると言えるのです。
「アセット・アセンブラー」モデルに基づきM&Aを継続的に実施することは当然リスクも伴います。そのリスクに対する感応度・健全な警戒心はしっかりもちながら、私は大株主として現在の経営の方向性を全面的に支持し、取締役会長として日本ペイントグループのMSVの実現にあらゆる面で貢献していく所存です。
2022年
日本ペイントのミッションについて
日本ペイントは、経営の唯一のミッションを「株主価値最大化(MSV)」にしています。400~500年前に有限責任会社の概念が形成された時に遡れば、株主価値最大化は至極当たり前の目的のはずでしたが、今や邪説みたいになっている事実を残念に思います。私が育った環境では、営利企業は株主の利益のみを追求するのが当たり前でした。誰もが同じ考えを持っていたため、会社のミッションを明示する必要もなかったです。しかし、日本ペイントの取締役に就任して驚いたのは、会社のミッションに全く株主価値が含まれていなかったことです。そのため、私はMSVというコンセプトを創り、宣伝しなければならなくなってしまったのです。正直なところ、自分が創ったコンセプトを同僚に繰り返し唱えてもらうのは、いささか滑稽にすら思えました。日本では「企業価値の向上」という言い方が一般的ですが、「企業価値」「向上」ともに問題があります。企業価値を上げながら株主価値を落とす経営があり得ることを知っておかなければなりません。「向上」では、利益が50%増加する可能性のある案件を差し置いて、10%しか増加しない容易な施策を選択しても構わないことになります。したがって、企業価値ではなく株主価値、向上ではなく最大化、と私は主張しています。
次に触れたいのが「ステークホルダー資本主義」です。「企業は株主だけではなく、ステークホルダーにも配慮しなければならない」という言い方ですが、全く無意味だと思います。24時間365日、取引先・従業員・地域社会・環境保全などのことを配慮せず、株主にのみ配慮する上場企業なんてまず存在しません。なのに、どうして「ステークホルダー“にも”配慮しなければならない」というのか理解し難いです。この言い方は業績不振の言い訳にしか用途がありません。MSVとは、まずはステークホルダーへの責務を十分に果たしたうえで、残存する株主価値を最大化することであり、株主の優先順位は法律上も実務上も一番下位なのです。ステークホルダー価値最大化という偽善的な理論が流行している今日の社会に逆行しているかもしれませんが、私達はMSVが特に上場している企業の唯一のミッションであるべきだと確信しています。
振り返ってみますと2014年に取締役として経営に参画した時点では、株主価値を周囲に真剣に捉えてもらうのに非常に苦労しました。株主価値を標榜する他社事例が殆ど存在しておらず、緒に就いたコーポレートガバナンス・コードも必ずしも株主価値を目的にしていないのが現実でした。ただここに来て賛同者・理解者は徐々に増え、いまや取締役会をはじめオペレーションの意思決定者に至るまでMSVをベースに議論・判断するようになったことは非常に喜ばしく思っています。また、そのミッションに到達する手段としての「アセット・アセンブラー」モデルも徐々に明確化されてきており、EPSとPERを最大化することによってMSVに邁進できる体制が整いつつあると感じています。
当社の大株主であるウットラムの存在は、世界的に見ても上場企業と大株主との関係においては稀な事例だと思います。長期的な価値の最大化を目指すという意味では、大株主と少数株主の利害は完全に一致しており、上場企業としての資本調達力と非上場株主の力を合わせることで、日本ペイントの強い成長の原動力となっています。まさに日本ペイントにとって有益なことは、ウットラムにとっても有益であり、Win-Winの関係であると言えるのです。そうした中、取締役会長として私は日本ペイントグループのMSVの実現にあらゆる面で貢献していく所存です。
2021年
ミッションである「株主価値最大化(MSV)」の実現に向けたさらなる飛躍を
2021年1月にアジア合弁事業100%化ならびにインドネシア事業買収が完了し、名実ともに一体運営となったことで、さらなる成長を加速する経営基盤を強化したことに加え、当期利益やEPS(1株当たり当期利益)が増加します。また、資本関係が一本化されたことで、少数株主の皆様と大株主である私たちウットラムグループとの間の利害は完全に一致しました。
ウットラムグループの持株比率は58.7%になりましたが、本件取引前と何ら変わることなく、少数株主の皆様と同じ目線で日本ペイントグループのMSVが実現されることを期待しています。これはすなわち、今後仮にM&Aなどの大型投資の実施に当たり、資本調達を選択することでウットラムグループの持株比率が下がったとしても、MSVに資するのであれば問題ないということです。ウットラムグループは50%超の議決権を保有することにこだわっておらず、MSVが唯一の判断基軸だと考えているのです。そうした中、私自身も取締役会長として日本ペイントグループのMSVの実現に貢献していく所存です。
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