独自の強みの相乗効果を通じた「アセット・アセンブラー」モデルの成功
当社グループは揺るぎない使命であるMSVを実現するべく、「アセット・アセンブラー」戦略を力強く推進しています。成功の要は、スピード、素早い意思決定、強力な実行力、円滑な連携、財務規律にあります。組織のあらゆるレベルで整合性と機動性を確保し、取締役会と密接に連携しながら共同社長の若月氏とともに協働できることを、私は幸運に思います。何よりも、当社の経営陣は、「アセット・アセンブラー」戦略に対するステークホルダーの信頼と確信を得ることが、長期的な株主価値の創造の鍵であることを確信しています。私はこうした挑戦に深くコミットしており、「EPSの持続的かつ安全な積み上げ」を目指して各地域・事業の経営陣を成功へと導くことに大きな意義を感じています。
私が思う当社グループは、常に変化し続けるダイナミックな企業であり、挑戦を恐れず革新的で、影響力のある取り組みを推進しています。スピード感を持って成果を生み出すことが、当社グループの成功に不可欠だと私は強く信じています。熾烈な競争と不確実性が渦巻く経営環境においては、スピードは決定的な強みとなります。慎重な意思決定も重要ですが、立ち止まることは後れを取ることを意味することから、俊敏性を維持することが必要です。スピードは、複雑さを取り除いてシンプルに捉えることによって実現します。こうした考え方は、組織の設計や経営陣に対する権限付与、コア人材への注力などに反映されています。
「アセット・アセンブラー」戦略に命を吹き込む
価値創造の強みと能力が独立・自律的なパートナー会社に備わり、分散型の組織構造を活性化する――そのための経営アプローチとして、当社は「信頼」と「協働」を基本に据えています。若月氏と私は結果に対して共同で責任を負う一方、お互いの能力と経験を深く尊重し合い、それぞれの専門分野に焦点を絞って業務を遂行しています。こうした強固な信頼と相互理解の基盤は、組織全体に浸透し、地域・事業をまたいだ経営陣間のシームレスで迅速な連携を促進しています。
2024年4月に発表した中期経営方針は、「アセット・アセンブラー」戦略の実現に向けた決定的な一歩となりました。そして、その初年度にAOCを買収したことは、「アセット・アセンブラー」戦略の本格的な実行と戦略的な意図を示すマイルストーンとなりました。当社グループは過去10年にわたり、米国のDunn-Edwards、豪州のDuluxGroup、トルコのBetek Boya、インドネシアのPT Nipseaなどを買収し、主力の塗料事業の統合に注力しながら、事業基盤を強化してきました。AOCの買収はこれとは対照的に、従来の枠組みを超え、より広範な事業領域へと拡大することを企図するものです。また、「アセット・アセンブラー」戦略の持つ柔軟性を際立たせ、バランスシートの強みを効果的に活用することでその適応力を具体的に示すとともに、併せて「安全なEPSの積み上げ」の考え方を明示するものです。
AOCの買収は、当社グループの強固な財務基盤を活用して実現しました。他の買収候補と比較しても、AOCは優れた経営陣、堅実な財務状況、高いキャッシュ・フロー創出力、優れた業績指標などの面で際立っていました。特に、AOCが自律的な運営を維持しながら独立して事業を運営できている能力は注目に値するポイントであり、今後も事業成長を継続することで当社グループのEPSにプラスの貢献をしてくれる見込みです。まさにAOCは当社がパートナー会社に求める重要な資質を体現しており、当社グループに迎えることができて大変嬉しく思います。
AOCの買収は当社グループの進化において重要なマイルストーンであり、「アセット・アセンブラー」戦略の真価を示すものです。同時に、AOCのような優れたアセットをグループに取り込むことで、さらなる成長を加速させることへのコミットメントの表れでもあります。
2024年は、「アセット・アセンブラー」戦略が持つ適応性と拡張性のもう1つの側面を示すことができました。2019年に当社グループ入りしたBetekBoyaは従来、NIPSEAグループのマレーシアグループに属していましたが、2024年にカザフスタンのAlinaの買収完了後、トルコグループとして独立しました。これは、「アセット・アセンブラー」戦略のボルトオン機能が有する戦略的な柔軟性や拡張性を示しています。Alinaを中央アジアへの事業拡大に向けた重要な足掛かりとしながら、北アフリカや中央アジアにおける成長機会に注力しています。トルコグループは地域展開の戦略的ハブとして、グループ内の役割拡大と持続可能で長期的な成長に向けた基盤を構築しています。
「自律・分散型経営」のもと、相互信頼を通じて優秀な経営陣の能力を最大限活用
当社グループはMSV実現に向けた「アセット・アセンブラー」戦略を効果的に実行するため、「自律・分散型経営」を採用しています。この経営体制は、当社独自の事業構造や市場環境に合わせて設計しており、人的資本を重視する当社の強いコミットメントの表れとして、持続的な成長の基盤となっています。
重要な意思決定が本社に集中し、地域レベルでの意思決定のスピードや機動性が損なわれることが多い中央集権的な経営体制とは異なり、当社グループの「自律・分散型経営」は、各地域の経営陣の市場ニーズに合わせた迅速かつ柔軟な意思決定を可能にします。こうしたアプローチは、当社グループの対応力を向上させるのみならず、本社にのみ専門知識を集中させるのではなく、グループ全体の優秀な人材の能力を最大限に活用することにもつながります。また、地域・事業を横断する優秀な人材を戦略的に配置することを可能にし、相互信頼に基づく自律的なリーダーシップの発揮を可能にするほか、各地域におけるリーダーシップの潜在能力を最大限に引き出し、各市場における競争優位性を強化します。「自律・分散型経営」の成功は、慎重に構築された信頼と権限委譲の枠組みにかかっており、これにより現地の経営陣は決断力と責任感を持って業務を遂行することができ、当社グループはこれまで持続可能な成果を一貫して上げることができました。
信頼と権限委譲のバランスは、「自律・分散型経営」の実効性にとって欠くことができません。中央集権的な意思決定に回帰してしまい、こうしたバランスを崩せば、パートナー会社の独立性を損ない、機動的な業務遂行を妨げることになります。そのため、当社は「本社からの過剰な干渉は、パートナーシップの基盤となる信頼を損なうリスクがある」ことを常に自戒しており、こうしたリスクを認識した上で、常に行動を通じて信頼を示すことに尽力しています。
紛れもなく、信頼は当社経営の考え方において最も重要な要素です。信頼は双方向の関係であり、パートナー会社の経営陣を信頼し、その信頼が報いられることによって初めて価値が生まれます。信頼関係がまだ構築されていない新規買収案件では、徹底したデューデリジェンスを重ね、経営陣の性格や価値観を理解することに最優先で取り組みます。個人的な関係や継続的な対話によって信頼の基盤を築くとともに、新たな経営陣が当社の意図や取り組みを真に理解できるよう努力を惜しみません。真の信頼は一朝一夕に得られるものではなく、相互理解や心からの敬意、積極的な努力を通じて時間をかけて育まれるものです。「自律・分散型経営」の成功は、制約のない自律性を与えることではなく、「制御された自律性(controlled autonomy)」の枠組みを維持することにあります。パートナー会社の経営陣には、相互信頼に基づく大きな裁量ある権限を委ねる一方で、適切な監督とアカウンタビリティを確保するためのガバナンス体制を整えています。例えば、組織全体の内部監査に向けた「Audit on Audit」体制や、積極的な自己評価を促す「Control Self-Assessment(CSA)」などの仕組みを導入し、過剰な規制に伴う落とし穴を積極的に回避しながら、効果的なリスクマネジメントを支援しています。投資家の皆様からは「自律的な経営はコントロールが難しいのでは?」、「グループとしての目標からパートナー会社が逸脱しないようにどう防ぐのか?」などの質問を受けることもあります。しかし、当社の「自律・分散型経営」の実態は、言わば「制御された混沌(controlled chaos)」であり、「過剰な制御や不整合をどう防ぐか?」という絶え間ない自問自答によって成り立っています。こうした不断の自問自答こそが、「自律・分散型経営」の核心であり、ダイナミックな自律性と分散性の神髄とも言えます。
当社グループは、グループの一員であることのメリットと自律性のバランスを適切に維持することによる成果を継続的に示すことで、優秀な人材を惹き付けています。こうした潜在能力を最大限に発揮できる人材の継続的な流入が、当社グループの持続的な成功の原動力となっています。優秀な人材を確保・維持する基盤を継続的に強化することによって、「持続的で安定的なEPS成長」につなげています。
パートナー会社の計画的な実行を通じた「アセット・アセンブラー」モデルの証明
当社グループは、塗料分野のみならず、さらにその周辺分野(Paint++)へと規律を持って事業領域を押し広げながら、現在の「アセット・アセンブラー」モデルへと進化を遂げることで、持続的なオーガニック成長を実現してきました。NIPSEAグループ、DuluxGroup、日本グループ、Dunn-Edwards、新たに参画したAOCなどのパートナー会社は、「アセット・アセンブラー」戦略の重要な業績指標である「持続的なEPSの積み上げ」を実現する責任を明確に認識しています。これらの各パートナー会社は、当社グループのプラットフォームが持つ強みを最大限に活用しつつ、自律的で独立した事業運営を維持しています。コロナ影響やサプライチェーンの混乱、インフレの昂進などの厳しい事業環境下にあっても、当社グループは「持続的なEPS成長」を着実に実現してきました。こうした一貫した実績は、「アセット・アセンブラー」モデルの基本原則が戦略実行に効果的であり、レジリエントな結果をもたらすという自信の根拠になっています。
例えば、DuluxGroupは太平洋事業の好調な業績を通じてEPS成長を継続して推し進め、欧州事業の回復の遅れを補っています。フランスでは、Cromologyが旗艦ブランドの「Tollens」と「Zolpan」の統合を進めるとともに、流通効率の向上やサプライチェーンの合理化に取り組んでいます。DuluxGroupは、業務用やDIY向け塗料市場の知見を共有し、Cromologyが市場を活性化させて、市場シェアを向上させるのと同時に、グループの購買力を活用してコストの最適化と競争力の強化を図る新たな戦略策定を支援しています。こうした取り組みは、今後市場が回復するタイミングでEPS成長を牽引する見込みです。
NIPSEA中国は、柔軟な戦略調整とターゲットを絞った市場施策を通じて、不動産市場の低迷や消費者センチメントの鈍化に苦戦しながらも、「持続的なEPS成長」を実現しています。不動産ディベロッパーが主導してきた住宅セグメントが縮小する中、既存の特級・1~2級都市に加え、3~6級都市へと事業を拡大し、小売り市場でのプレゼンス強化に取り組んでいます。これまで培ってきたブランド力や市場洞察力を生かすことで、地方都市に住む現地の消費者ニーズに合わせた製品を提供できることから、今後の成長見通しには確信を持っています。同時に、消費者の想像力を刺激し、塗り替え需要の拡大を促す「カラー」戦略を推進する変革にも取り組んでいます。
NIPSEA中国はまた、学校や病院、工場、老朽化地域の再生プロジェクトなど、政府や公共部門向けのBtoG事業を新たに立ち上げることで、市場カバレッジを拡大しています。これまで確立してきたブランド・プロミスに基づき、防水剤や接着剤、パテ、トップコート、プライマーなどを包括的に取り扱う「トータル・ソリューション」を提供することで、多くの新規大口顧客にとって魅力的なパートナーとなりながら、競合他社との差別化を図っています。
このように、各パートナー会社は、厳しい市場環境をものともせず、「持続的なEPS成長」の実現を追求し続けています。当社のコミットメントを現実的で測定可能な成果として継続的に示すことによってのみ、「アセット・アセンブラー」モデルの信頼性と実効性を強化し続け、将来の潜在的なパートナー会社を惹き付ける可能性を高めることができます。
多様性がグループ・シナジーの創出を促進
当社グループは、各パートナー会社の独立性を尊重しながら、グローバルなプラットフォームを活用した連携とシナジー創出を推進しています。これには継続的で積極的なマネジメントが必要であり、パートナー会社の経営陣がグループの力を十分に理解するだけでなく、当社グループにとって、各パートナー会社が持つ固有の強みを維持、守ることが重要であることを受け入れることで、こうしたバランスをより容易に実現することができます。これまでも折に触れて紹介してきた「Selleys」は依然としてその好事例です。DuluxGroupを2019年に買収したことで、「Selleys」ブランドが新たに加わり、SAF(密封剤・接着剤・充填剤)事業の大きな成長可能性が明らかになりました。DuluxGroupとNIPSEAグループの経営陣が協力し、NIPSEAグループが有するアジア全域にわたる広範な流通ネットワークに「Selleys」を展開することで、新たな価値を創出することができました。そして、2021年にはマレーシアの大手SAFメーカーであるVital Technicalの買収につながり、NIPSEAグループの域内での地位のさらなる強化につながりました。また、シンガポールの家庭用洗剤・クリーニング市場にも「Selleys」を展開し、スーパーマーケットや大型ホームセンターでの販売を開始し、SAF事業の枠を超えてブランドの強みを拡大しています。今後もこうした勢いを維持しながら、アプローチ方法を調整し、人材基盤を構築することで、ブランド価値の向上や消費者認知度の向上、SAF事業の成長を推進していきます。
グループ横断の連携は、強力なブランドや革新的な製品、新技術、あるいは圧倒的な規模の領域だけに限定されるものではありません。市場の洞察やアイデアを積極的に共有することで、リーダー陣の想像力を刺激し続けています。日本の建築用塗料市場も、こうした取り組みが加速している好事例です。伝統的な慣行が根強く残る日本市場において、新たなグローバル人材を投入し、日本の若いリーダー陣に他のダイナミックな市場を経験させることで、市場参加者、ステークホルダー、消費者の慣行や習慣の変革を目指しています。変革に向けた取り組みの1つとして、販売代理店が主導する日本の伝統的な市場構造に新風を吹き込むべく、Betek Boyaのマーケティング責任者のリーダーシップのもと、グループ全体の知見と経験を活用しています。Betek Boyaのマーケティング責任者は、日本の伝統的な考え方や前提に挑戦しようとしています。
日本市場で成功するためには、当社が大切にしている日本のコアな特性をしっかりと踏まえつつも、大企業特有の行動様式から脱却し、新しいアイデアや考え方を取り入れる必要がある――「伝統的な考え方や前提に挑戦する」という姿勢は、こうした日本グループのリーダー陣の決意に端を発したものです。これは従来の慣習という逆風に逆らって進む進行途上の取り組みではあるものの、日本において誰かが成功できるとするならば、それは世界中から多様な経験を持ち寄ることができる当社だと確信しています。当社グループは過去数年にわたって日本グループの経営陣の国際化を進めてきたことで、今後も変化のスピードがさらに加速し、将来的には日本の潜在的なパートナー会社にとっても魅力的な存在になっていきたい考えです。
幅広いグローバルな柱に沿った地域密着の取り組みを通じてサステナビリティを実現
当社グループは「アセット・アセンブラー」モデルのもと、グループ全体で統一したガイドラインと各パートナー会社の自律性をバランスよく組み合わせることで、サステナビリティを推進しています。こうした分散型の体制により、現地のチームは、各国・地域に特有のニーズを反映した施策を立案・実行することが可能となっています。各地域の規制や顧客の期待に応えることで、機動性と適合性を高めつつ、より広範なサステナビリティ目標を支える事業価値を創出しています。
具体的には、「人とコミュニティ」チームは、各地域特有の社会的課題に対応する地域密着型の取り組みを進めています。インドでは女性の塗装工の育成を通じたエンパワメントを推進しているほか、インドネシアでは漁船の塗装プログラムを通じた漁業コミュニティの支援に取り組んでいます。中国では、地元の学校と連携した学生支援の取り組みを展開しています。これらの活動は、地域のニーズに応えるだけでなく、事業価値の創出にも貢献しているのが特長です。一方、「調達」チームは、監査を受けた優良なサプライヤーを活用し、グループ全体でサプライヤー情報を共有することで、社会的責任と業務効率の両方を推進しています。
株主価値の持続的な創出に向けて
私を突き動かすのは、従業員一人ひとりを鼓舞し、ともに協力することで、迅速な行動を促し、野心的な目標を達成する機会です。従業員の間で幅広い共通の目的意識を育むことは、深い充実感をもたらすだけでなく、長期的にはやりがいを強く感じ、豊かな人生につながります。あらゆるレベルで成功体験を共有することで、必然的に仕事への満足度と組織への誇りを高め、従業員とその家族の生活の質を向上させるとともに、顧客の満足度を高め、ひいては株主価値の最大化につながります。
「アセット・アセンブラー」モデルのもと、実績のある優れた経営陣が、独自の価値創造戦略を通じて持続的な発展を推進し、当社グループの潜在能力を最大限に引き出しています。投資家の皆様からの継続的な信頼と支援を得ながら、今後も新たな挑戦に果敢に取り組み、MSV実現というミッションを達成していきます。