社外取締役スモールミーティング 質疑応答要旨

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質問者:投資家 A氏

  • A1MSVの考え方ですが、一般的にはEPSが上がれば株価にも影響しますので、株主に対して大いに貢献するのではないかと考えています。しかしながら、株主第一主義と一見して似ていると思われるかも知れませんが、当社グループの目指すMSVとは考え方が似て非なるものです。

    取締役会では投資案件をはじめ常に判断することが求められており、取締役会に議案が上程されなくても、当社グループのGKP(グローバル・キー・パーソン)と呼ばれる主要メンバーと折に触れて意見交換をしています。MSVには「最大化」という言葉が付いていますが、会社が果たさなければならない責務について、民間企業として従業員や顧客などの満足度の最大化を考えてみましょう。

    もし株主以外の全てのステークホルダーの満足度を最大化すると、残余価値である株式価値はおそらくなくなってしまうでしょう。株式会社としての運営上、例えば従業員との関係では、仕事に対する報酬やキャリアプランに対する会社側の支援システムなどがあり、これはある意味で契約の一種になります。顧客に対しても、製品に対する適正価格での販売や、品質に対する補償内容の提示などの契約があります。こうした前提に基づいて従業員や顧客は、当社グループに勤めるべきか、当社グループ製品を買うべきかを判断しています。また、一般的な社会的責務はありますが、工場や本社が立地する地域住民の満足を最大化することはできない一方で、当社グループがその場所で事業経営する場合に果たすべき責務は、やはり一種の契約(文章化しているか否かを問わず)の世界になります。それらを正確に積み上げた上で、残るものを数字で表わすとEPSになります。

    このEPSを導くまでの過程がきちんとなされているか、常に取締役会として「こういう見方もあります」と経営陣に対して警鐘を鳴らしていくことが非常に重要と考えています。例えば企業文化の形成は、従業員に対して提供しているある種の契約関係の中で非常に重要なものです。企業文化を一歩間違えると、昨今話題になっている実施すべき検査を怠るなどの問題が起きる可能性があります。それを許している企業文化をそのまま放置することは、取締役会としてMSVの観点からも不適切だと考えています。このように、かなり広範に物事を見ている上でのMSVは、数字上では確かにEPSとなりますが、EPSを導き出すまでの過程をしっかりと監督しています。

    また、顧客や従業員、社会に対して正しく責務を果たし、正しいEPSを導くためにも、無駄は省かなくてはいけません。統合報告書の中で共同社長のウィー氏が「LFG(無駄のない成長)」という言葉を使っていますが、そうした極めて筋肉質で、贅肉のない組織を目指すことが同時に今、求められています。

    また、欧州自動車用事業とインド事業のウットラムへの売却の背景ですが、Bollig&Kemper社(B&K社)を買収してからの欧州自動車用事業は、これまで経営状況が芳しくなかったため、取締役会として改善案を要請し、3、4回ほど再建策を見てきました。優秀な再建案はありましたが、このビジネスの再建には複数年が必要であり、再建している間に競合他社が大きく先行してしまい、周回遅れが長く続いていました。インドでも残念ながら過去にMSVを追求しない経営判断をした結果、再建を余儀なくしてしまいました。

    当然ながら取締役会はこれらの事業を改善することを強く求めてきましたし、新しく共同社長に就任した2人もそれが自分たちの責務であることは十分理解し、今までの再建策ではダメだと判断しました。ウットラムへの売却案に対しては、当初全ての社外取締役は、アジア合弁事業の100%化が完了し、資本関係を一本化したばかりで、再びウットラムと複雑な関係となるのに疑問を感じたと思います。

    2人の共同社長に社外取締役メンバーが確認したことは、どのようなビジネスプランで進めるのか、どのように欧州とインドの事業をMSVに貢献させるのか、という点です。ウットラムに両事業を売却するスキームではありますが、その結論を出す前に何をどうしたいのか、ビジネスプランをきちんと示すところから議論をスタートしました。そうすると、このスキームはある意味でベンチャー事業の立ち上げであり、普通の上場会社も実施していることだと結論付けました。あるベンチャー事業を立ち上げる時に、自分たちだけでは難しいアグレッシブな案件であれば、それを当社グループのビジネスを充分に理解した上で当社グループに投資している株主へ財務的なリスクの負担を求め、当方は経営資源を提供するジョイントベンチャー化、そのようなことができるかどうか、というのが一番厳しい議論でした。

    加えて、欧州自動車用事業とインド事業は戦略的にも重要であり、再建を実行したいが、失敗の可能性もあります。ゼロから始めるのであれば新たに現地パートナーと新しい挑戦ができるかも知れませんが、過去の失敗の積み重ねの上での取り組みのため、当社事業をよく理解しているウットラムが資金を出して、ある段階で当社が買い戻せる権利を保有するスキームで検討を進めました。

    インド事業も既存のジョイントベンチャーを含め極めて複雑であり、インド全体のビジネスの将来性を勘案して、欧州事業とともに一旦切り離すことを判断しました。

    おそらく今回のスキームは成功する可能性が高いと思います。審議の過程では、特別委員会を立ち上げて議論し、プライシングやバリュエーション、法的側面でも全て外部のアドバイザーを雇って実行しましたが、単なる利益相反を回避する形式的なプロセス・判断をしたわけではありません。取締役一人ひとりの中での葛藤と取締役会での議論は、今その端緒を披露しましたが、かなりいろいろな議論があって思い切った結論を出したとご理解ください。

    なお、将来的に買い戻すタイミングでは、また大いに議論することになると予想しています。

質問者:投資家 B氏

  • A1私たち社外取締役は6人が、全てのステークホルダーが何をどう考えているかしっかり把握しているかと言えば、それに最大限努めてはいるものの、必ずしもそうではないかも知れません。同時に、そうした状況は日々変わってくるため、それに対してアンテナをどう伸ばしていられるかが重要となります。

    こうした課題の解決方法はいくつかありますが、まず一つは、当社グループが手掛ける塗料事業や塗料周辺事業において、執行部またはGKPの意見を聞くことです。彼らも当然ながらさまざまなステークホルダーに配慮しながら事業に取り組んでいます。また、当社グループのパートナー会社には、豪州で上場していた会社もあり、彼らから社会的な責任やステークホルダーに対する責務のあり方、あるいは内部統制システムなどに関する知見や知恵を借りて、既存の地域・事業の中でどういう責務をステークホルダーに果たしていくべきか、つまり一義的には事業の責任者から直接聞くのが一番の判断に向けた情報ソースだと私は考えています。

    他方、いろいろな投資案件や組織変更、人事案件などについて取締役会に相談が寄せられるわけですが、「ステークホルダーに対する責務の充足」を踏まえて監督・助言する社外取締役のレベルをどう上げるかついては、「独立社外取締役会議」があります。この会議体は、取締役会の直後、あるいはもう少し余裕のある時間帯で年に14、15回開催しているもので、アジェンダも議事録もありません。社外取締役6人が当社グループに対して果たすべき役割はどこにあるのか、将来的な問題の発生を含む情報は存在しないのかなど、議論の中で知識や情報のブラッシュアップをしています。社外取締役6人の意見を一つに集約するというよりは、お互いのレベルを上げるべく議論しています。

    独立社外取締役会議には外部から専門家を呼ぶこともあります。例えば、最近は米国の法律が少し厳しくなっているので専門家に解説してもらい、当社グループがどのような問題を内包しているのかを一緒に議論したり、あるいはガバナンスについて研究している大学の先生などをお呼びして、米国や欧州でいったいどんな問題が生じているのかなどを折に触れて議論しています。また、取締役会では年に1度、実効性評価を実施していますが、外部評価レポートの作成担当者と意見交換しています。こうしたことを通じて、ステークホルダーに対する責務に関して私たち自身がレベルアップしていく努力をしています。加えて、その中で取締役会のレベルをさらに上げるために、どのような実務の知見がある人物を招聘するべきかなど、ダイバーシティについても常に議論しているところです。

  • A2素晴らしいキャリアか分かりませんが、MSVの追求に向けて、それぞれの社外取締役が今まで築いてきたレピュテーションを賭けて、実際の会議に留まらず、「常時」進行する取締役会に臨んでいます。

質問者:投資家 C氏

  • A1まず、田中氏が株主総会後に社長職を辞任した件について、確かに最適な経営トップの選択が取締役会の最優先課題であることは確かですが、これは状況によって変わってきます。田中氏とは2018年の年末から対話を始め、2019年に会長へ就任し、2019年の後半には実質的な田中体制が完成しました。筆頭独立社外取締役としてずっと横で見てきましたが、田中氏が最後に作り上げた新中期経営計画は、当時CFOだった現共同社長の若月氏とともに非常に努力して策定したことなど、約2年にわたって田中氏が果たした役割は非常に大きいものでした。

    しかしながら、新中期経営計画の実行に向けて、田中氏自身の体力面、気力面での悩みも出てきたことは確かです。それをどう取締役会が敏感に察知するかは私たちの責務だと認識しています。株主総会が近付く中で、田中氏からは辞意表明は出ていませんでしたが、将来的な辞任リスクの可能性をおそらく取締役の全員が感じていたのではないかと思います。問題はそれがいつか、タイミングの問題であったと思います。新中期経営計画の策定を巡り、計画が出来上がった段階で誰が実行し、最終年度までの3年間の途中でトップを交替させる必要があるかなどの議論において、大株主でもあるゴー氏の意見はある意味で8人いる取締役の中の一意見でした。

    次に、欧州自動車用事業とインド事業のウットラムへの売却についてですが、取締役会でゴー氏から意見や考え方を確認したことは一度もありません。この件をゴー氏は関知しているかどうかの確認こそしましたが、それ以外でゴー氏が意見を差し挟む余地はどこにもありませんでした。

    そうした中、ゴー氏は、指名委員会の委員の1人ですが、私も含めた計4人いる委員の1人です。ゴー氏は正直に申し上げて、取締役会のメンバーの中で、当社グループで重要な役割を果たしている人物を最もよく知る人物です。それはアジアだけではなく、おそらく日本についてもゴー氏が一番よく知っています。その意味で、ゴー氏の存在は、指名委員会でいろいろな情報を入手する上で貴重な存在であることから、指名委員を務めてもらっています。

    ゴー氏との議論は、取締役会として部屋に集まって話すだけではなく、直接の電話やメール、SNSでのやりとりを常時行っています。また、ゴー氏のみならず他のメンバーとも同様で、共同社長のウィー氏、若月氏に加え、NIPSEA中国のエリック・チュン氏、NIPSEAマレーシアグループのヤウ・センヘン氏などのアジア各国のメンバー、豪州DuluxGroup社のパトリック・フーリハン氏などとも常に連絡を取り合っていますが、そうしたやりとりの中で私たちは一つひとつMSVに向けた最適解を判断していかなければなりません。

    私たち社外取締役は、株主総会で大株主のウットラムがノーと言えば解任されますが、ウットラムが仮に少数株主の利益を無視し、少数株主の利益を優先しないような判断や進め方をする姿勢が感じられた場合、おそらく株主総会での決議を待たずに、今の6人の社外取締役は責務を果たせないと判断し、皆辞任を申し出ることになると思います。そうした視点で仕事に取り組んでいることは、おそらくゴー氏自身もよく分かってくれていると考えています。

質問者:投資家 D氏

  • A1M&Aを実行するに当たり、非常に小さい案件は現場に任せています。取締役会に上程される案件は、新聞発表の必要があるぐらいの大きな案件になります。

    以前はM&A諮問委員会があり、その中でかなりの議論を重ねていましたが、2020年1月にM&A諮問委員会を発展的に解消した後は、M&A案件は経営陣がかなり検討した後で取締役会へと上がってきましたが、直前で判断を求められるケースもあったため、さらに見直しています。現在、各地域の事業責任者には、投資案件・買収案件ともに、将来の可能性も含めたロングリスト(買収対象候補先)の提出をお願いしています。このリストは投資案件・買収案件の希望リストになっており、かなりのページ数ですが、個々のリストを作成したメンバーに説明してもらいながら、優先順位を付け、実現可能性に関して検討し、今後どのようなタイミングでどういう内容で実現させていくかなどの具体的な議論を進めています。

    一方で、取締役会では成長に向けたM&Aのイメージやロードマップを常に議論しています。当社の時価総額やバランスシートに基づいて将来の道筋を考えると、なぜアジア合弁事業の100%化を全て第三者割当増資で実施したのかをご理解いただけるかと思います。借り入れによる調達ではバランスシートが毀損してしまい、その後の将来の夢は描けません。しかし、将来的にエクイティファイナンスなどで、ウットラムの持株比率が下がっても良いことが確認できていれば、一時的にウットラムの比率は上昇するけれども、バランスシートを強化するため、当社グループが発展する上で一番良い方法と考えました。このように、取締役会では、当社グループの将来像と資本政策を常に検討・共有しています。

    実際の決議は非常に短期間で判断しなければならないケースもあるため、検討を開始したM&A案件はすぐに取締役会に報告して欲しいと伝えています。特に重要度が高い案件に関しては、例え資料が不十分でも報告ベースでまず取締役会に上げてもらい、決議に先立って何度も報告・審議を行なっています。

    他方、M&Aの決議はタイムリーさも要求されますので、取締役会がすぐに開催できなければ、案件を取り逃してしまいす。当社グループでは、現場からの投資案件・買収案件の希望リスト、取締役会で議論している将来像・ロードマップ、そして事前情報をもとに取締役会でM&A案件を前広に検討しています。そのため、途中で断念する案件もある一方で、決議の段階で初めて耳にする案件はあまりありません。基本的に取締役会のメンバーが案件の進捗情報を常に共有できている状態になっています。

  • A2取締役会決議となる投資案件・買収案件資料の中で一番のポイントは、EPSの増加を見込めるかを重視しています。また、当社が実施する価値計算において、PERやEV/EBITDAなどだけではなく、案件を実行した結果として当社グループのバランスシート上での余裕をどこまで求めるのかなどを同時に検討しています。EPSの増加が見込めない案件については、基本的に取締役会には上程されず、検討途中で断念することになります。

質問者:投資家 E氏

  • A1現在、一時期に比べ当社の株価がやや軟化していることは、当社側も重々認識しており、その現状に対する当社グループの方針は、MSVの思想を変えず、執行業務でEPSを上げることだと考えています。加えて、株価形成の要素となるPERについては、財務的観点、ガバナンス関連の整備、IR・広報などの観点から価値創造に努めており、私自身も1日に何回か当社の株価をチェックしています。

    株価動向や投資家動向、競合他社動向は月に1回、取締役会のメンバーにレポートとして配布されており、それを見た上でさまざまな意見交換をしています。当社の株価形成に関しては、やはり当社のMSV思想に一番近い形で株価が形成されることが望ましいと個人的には考えます。株価が割高・割安になる場合でも、当社自身が企業価値を評価する必要があると考えます。評価方法はEPSとPERなどの計算だけでなく、各地域・事業の将来性を踏まえた企業価値を導き出す必要があります。また、インドなどではかなりPERが高いケースもありますが、それを当社で適用可能なのかも含めて、当社の株価が割安・割高であるかどうかの視点は、当社自身の感覚として常に持つ必要があると考えています。

    過去10年にわたって実施してきたことに加え、新中期経営計画や新経営体制などと合わせて考えていくことになります。しかし、今は原材料価格の高騰、中国など減速懸念の地域・事業があることで、株価にやや影響を与えていると思われます。

    社内でも企業価値の評価を十分に実施しており、割安・割高、適正価格の感覚は当社自身が持ちながら、必要な時はインベスターリレーション部とも協力し、投資家の皆様との対話の強化にも注力してまいります。

  • A2もちろんです。取締役会では当社グループの将来像やロードマップを議論していますが、その中には当然資本政策も入ってくるため、株価に関する議論にも発展しています。

質問者:投資家 F氏

  • A1忖度の必要はない企業だと考えていますが、常に気を引き締め、忖度は不要だと周囲に周知する必要はあります。忖度リスクは終身雇用を前提とする日本特有の事象で、人生そのものを特定の企業で終える場合、忖度リスクは起こりやすい状況にあると感じています。

    当社グループの日本の従業員比率は約1割ですが、日本以外のメンバーとも議論し、さまざまなビジネスを展開する中で、「日本は特殊である」「日本では通用しない」などの説明でビジネスを捉えない視点を取締役会もサポートしながら広めていきたいと考えています。

    加えて、人(一緒に働く)を信用しないコストに関しても重視しています。日本や米国の巨大企業は規則を整備し、その規則を管理する人を置き、人を信用するためのコストをかけています。管理者を置いても発生するリスクはあり、管理者を置かずに人を信用することでモチベーションの上昇につながることもあります。人を信用することで起こり得るリスクと、人を信用しないことに基づき発生するコストと、どちらがMSVに寄与するかを当社では今一番議論しています。

    当社グループは中央集権的な体制ではなく、「力強いパートナーシップ」のもとで買収した会社に権限を委譲しながら、その会社のトップマネジメントにその会社のオペレーションをしっかり任せる経営スタイルが大事だと考えています。相手に「信用しろ」と言う前に、こちらが「信用しています」と伝えなければ、この「力強いパートナーシップ」の関係性は成立しません。「力強いパートナーシップ」をより強化することで、当社グループの成長につなげていく方針です。

質問者:投資家 G氏

  • A1当社グループの中で、DX分野で一番遅れているのが日本事業です。NIPSEAグループは、中国も含めたアジア全体で早くからDXを推進しており、工場の自動化などがかなり進んでいます。豪州のDuluxGroup社、米国のDunn-Edwards社も必要に応じてDXを作り上げており、整備が進んでいます。

    持株株会社である日本ペイントホールディングスへのDXは各パートナーカンパニーからのデーターを集約するだけですので、大がかりな整備は不要である一方、事業会社でのDX整備が極めて重要と考えています。当社グループのDXはグローバルではかなり進んでいる認識ですが、日本など遅れている地域もあるのが現状です。日本事業の売上はグループ全体の15%くらいではありますが、現在、日本は後れを取り戻すため整備を進めています。この分野では、リコーで情報技術を先導してきた経験を持つCIOの石野氏を中心に最優先で取り組んでいます。

尚、本スモールミーティング当日の回答で言葉足らずと思われる点については若干補足しました。

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