セルサイド・アナリストと共同社長のスモールミーティング 質疑応答要旨

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若月共同社長

本日はスモールミーティングへご参加いただき、ありがとうございます。時間の関係上、このまま質疑応答に入ります。その前に、皆様の関心の高い中国事業についてご説明いたします。中国国内の経済状況の厳しさが増す中でも、私は当社の中国事業について慎重ながら楽観的な見方を維持していますが、より現場の状況に精通しているNIPSEAグループのCEOでもあるウィーから、現状と今後の見通しについてご説明いたします。

ウィー共同社長

皆様、こんにちは。ご参加いただき、ありがとうございます。前回のミーティングに参加した方もいるかと思いますが、中国の状況は前回2022年11月からかなり変化しています。

ご承知の通り、当時の中国はゼロコロナ政策を続けていました。そうした中、前回のミーティングでもお話した通り、北京で大きな会議が開催され、誰もがロックダウン(都市封鎖)やゼロコロナ政策の終了、景気刺激策の実施を待ち望み、バラ色の未来が開けることに期待していました。それから1年が経過しましたが、私たちは依然として逆風下にあります。それが若月のコメント「極めて厳しい状況の中で、慎重でありつつも楽観的」の根拠となっています。

塗料・コーティング事業を手掛ける当社の事業と最も大きな関わりのある不動産セクターは、依然回復途上にあり、特に新築住宅市場は大きく低迷した状況からようやく回復に向かっている段階です。

ご存じの通り、経営難に陥っていた大手ディベロッパーのうち1~2社は融資の組み換えを行い、最悪期から脱しつつあるように見受けられます。しかし、最大手のディベロッパーはまだ苦境から抜け出せていません。裁判所は2023年12月4日、当該ディベロッパーに対して再建計画提出の期限を1ヵ月延期しました。現地紙によると、政府が銀行に対して融資継続を推奨する不動産ディベロッパーのリスト(ホワイトリスト)があると報道されています。一部の都市では、住宅購入や土地売却を奨励する政策的な動きも見られます。

全体としては資金援助や政策面での支援はあるものの、現時点で不動産セクターがどれだけ早く回復できるかを判断するには時期尚早です。

こうした状況に対する当社の対応についてご説明いたします。

当社は、不動産ディベロッパーとの取引が中心とするTUB事業全体を見直しました。多角化を大幅に推し進め、地方の小規模ディベロッパーと取引を開始しただけでなく、他の建設請負業者やサービス・プロバイダーとも取引しています。また、中事業核である住宅セクター以外でも急速に多角化を進めています。

このような施策が奏功し、極めて厳しい市場環境に直面しながらも、TUB事業を「安定化」させることができたと考えています。「安定化」とは、問題を抱えている多くの企業との取引を停止したということです。当社は信用取引の基準を厳格化し、業績不振の事業からも撤退しました。この結果、2023年の第3四半期から第4四半期にかけて、かなり良い状態へ移行することができました。2024年はさらに強固な足場でスタートを切りたいと考えています。TUB事業は全般的に、景気さえ回復すれば、好機を捉えることができると考えています。いずれにせよ、当社は慎重な経営を続けていますが、景気好転に備えた歩みを止めているわけではありません。

中国事業に関しては、若月が第3四半期の決算説明会で述べた通り、TUB事業は前年比で縮小する可能性があります。一方で、当社のB2C事業であるTUC事業は引き続き成長を続けています。2023年の成長率は10%台半ばを超える見通しで、2024年以降も好調を維持できる見込みです。

私は、2021年8月に開催した中国事業説明会において、TUC事業の戦略についてご説明しましたが、2年後の現在、その際に実行すると話した多くの計画が成功を収めています。この成功がTUC事業だけでなく、当社事業全体の成長をけん引しています。中国建築用事業はTUC事業の比率がTUB事業に比べてはるかに大きいためです。中国事業全体としては2023年も成長を続けており、2024年も成長モメンタムが続くことに期待しています。

NIPSEA中国は2023年末まで全てが順調に推移すれば、経営環境の逆風や予定している追加引当金の計上にもかかわらず、人民元ベースの絶対額で過去最高の売上収益を達成できる見通しであり、営業利益も過去最高を記録する見込みです。

TUC事業はこのように、当社がこれまで実行してきた計画が奏功し、極めて好調な業績を維持できると考えています。一方で、TUB事業についても、安定化に成功したため、景気の回復局面において好機を捉えたいと考えています。

質問者:ゴールドマン・サックス証券株式会社 池田篤氏

  • A1 (ウィー)
    中国の建設セクターが低迷しているというご指摘はその通りですが、このような厳しい状況では、市場回復のかすかな兆しが安心材料になることもあります。先日PMI(製造業購買担当者景気指数)がやや上昇したというニュースがありましたが、このような極めて困難な時期においては非常に歓迎すべきニュースです。ご指摘の通り、中国市場には当社のブランド・エクイティが存在しており、特にTUC事業の成長につながる利益創出に向けて当社が導入した数多くの戦略を前に進める原動力になっています。
    ご存知のように、TUC市場における当社のシェアはまだ27%(当社推定)程度です。競合他社の上位2社の市場シェアは、それぞれ1桁台後半と推測しています。つまり、当社を含めたトップ企業3社にとって、まだ50~60%のシェア獲得余地があるということです。
    当社を含むトップ企業3社が、なぜ市場シェアを獲得できると考えているか?それは、過去2~3年の実体験に基づいています。当社は、営業基盤の中心である大都市圏で市場シェアを獲得しているだけでなく、成長機会を見込んで重点を置いている3~6級都市でも急速に成長しています。この戦略は、2020年後半から2021年初めにかけて開始したもので、戦略を軌道に乗せるために時間をかけて取り組んでいます。なぜなら、販売網の構築やチームの配置が必要であり、3~6級都市の中には適切な製品ポートフォリオを整える必要がある都市もあるためです。
    このような戦略は全て順調に進んでおり、3~6級都市でのシェア拡大が進んでいます。こうした成長は、単に人材の補強、市場への働き掛け、宣伝活動の展開、ブランド力の活用だけで実現しているのではなく、他の戦略との相乗効果によってももたらされています。
    その1つが、資産の保有を抑えて、財務を軽くする「アセット・ライト戦略」であり、パテやモルタル製品などで主力の塗料・コーティング事業を補う手法です。こうした取り組みは、各市場へのサプライヤーであり、各地で取引先や生産設備を持ち、より安価な原材料を入手できる体制を構築している地方メーカーとのパートナーシップの構築によるものです。各社はなぜ、当社とのパートナーシップに同意したのか?その主な理由は、パートナーシップを通じてNIPSEA中国と「立邦」ブランドを活用することで、当社とともにさらに成長を実現できると考えるためです。
    ドライ・モルタルや粉体塗料にとどまらず、地方の小規模な塗料メーカーにも働き掛け、NIPSEA中国のパートナーとして迎え入れています。当社はこのようにブランド力を活用しています。ブランドが全てではないとの見方もありますが、消費者への働き掛けや企業へパートナーシップを持ち掛ける際にブランド力が鍵となります。消費者や企業はブランド力を重視するからです。
    当社は、価格やマージンを犠牲にすることなく、市場シェアを拡大しつつあります。こうした戦略は3年目を迎え、事業成長として結実しつつあると考えています。今後市場が回復して、消費者信頼感が上昇すれば、当社は非常に有利な立場でその戦略の恩恵を受けることができると確信しています。
    消費者は足元の厳しい経済状況にどう対応し、当社はそうした消費者にどう対応していると考えているか?というご質問にも回答いたします。
    建設セクターは厳しい状況に直面しています。政府が過去3~4年に推し進めたデレバレッジ(過剰債務削減)政策が多くの大手ディベロッパーを苦しめ、新築住宅の建設が大幅に減速したことが主な原因です。消費者の住宅購入意欲も低下しているものの、より安価な製品を求める傾向が強まっているため、大量生産品や低価格製品の販売が伸びていると当社は考えています。
    中国No.1ブランドである当社は、プレミアム市場でシェアを維持しています。景気見通しと歩調を合わせて消費者心理は悪化するかもしれませんが、ブランド認知度、ブランド選好度、プレミアムとエコノミーの両市場でのシェア維持などの観点から、NIPSEA中国事業は非常に好調に推移していると考えています。
    当社がどのようにブランド力を活用しているか、もう1つの例をご紹介いたします。過去2年間にわたって実施した当社の広告や市場活動から見て取れるように、NIPSEA中国は自らをカラー(色)分野においてマーケット・リーダーであると位置付けています。当社がカラーを積極的に推しているのは、業界リーダーとして市場を先導すべきと考えているためで、カラーで市場の需要を喚起できると判断したからです。
    低迷している塗替え市場でも、カラーが需要の起爆剤になると当社は考えています。中古住宅販売市場が低迷すれば必ず塗替え需要も低下しますが、人々が老朽化した家に住み続ける場合、カラー戦略や広告、製品構成によって、需要を喚起できると見込んでいます。こうした取り組みが、「塗替え市場をどのように捉えているか?」という質問に対する回答になります。
    当社は、インテリア・テクスチャー・ペイント(interior texture paint)である「マジック・ペイント」を軸とした広告活動を展開しています。マジック・ペイントの理念は、カラーとテクスチャーでインテリアを美しくするという考えです。マジック・ペイント・カラー戦略の一環として、コンピュータ調色システム(CCM)の市場浸透を拡大させています。
    当社のCCM設置台数は現在、推定1万8,000台超に上り、2年前に比べて数倍に増えました。NIPSEA中国は小売市場におけるCCM設置台数全体の40%を占めており、その数は現在も増え続けています。
    当社は、CCMの設置にはまだ多くの可能性があると判断しています。中国市場とインド市場を比較した場合、中国での設置台数はインドの5分の1にとどまっているため、十分な成長余地があります。このため、塗替え市場の需要を喚起し、カラー戦略を推進する余力はまだ大きいと考えています。
    以上の説明から、市場リーダーとして、カラーに対する消費者の関心を引き付けながら市場需要を喚起し、生産や販売の拡大に努めていく当社の姿勢が強く伝われば幸いです。

  • A2 (ウィー)
    まず、「アセット・ライト戦略」について回答いたします。ドライミックスのパテとモルタルは、塗料・コーティング事業のポートフォリオを補完する重要な製品と考えます。当社は7~8年前からこの戦略を実行に移しており、最初はビジネスを学ぶことからスタートしました。自社工場を設置し、製品を管理し、市場に適した製品を学ぶなど、初歩的なことから始めたのです。市場によって好まれる製品が異なるものの、当社はそれらも含めて全てを学びました。
    「アセット・ライト」と称していますが、当初は「アセット・ヘビー」な戦略でした。ビジネスを学び、大きく成長するためには十分な準備を整えることが必要と判断したからです。
    何をすべきか?このビジネスで成功するためには何が必要か?を理解してから、「アセット・ライト戦略」に移行しました。中国各地にはドライミックスやパテ、モルタルの小規模メーカーが数多く存在し、それぞれの強みを生かしている企業があります。各社の強みとは、既に販売網を確立しており、小規模な工場を保有していることです。こうした企業と手を組むことは、パートナー会社として各社が単に「Nippon Paint」ブランドを使用できるようにするだけでなく、製品開発について協議しながら、塗料配合情報を共有し合い、協力することを意味します。こうした関係こそ、まさに「真のパートナーシップ」です。
    こうした戦略を通じてNIPSEA中国が得たものとしては、自社工場の完成を待つよりもはるかに速く成長軌道に乗ることができて、遠隔地域の市場参入も可能になりました。地方市場では現地企業が当社よりもはるかに優れた流通網や取引関係を構築しています。
    地方の中小メーカーの多くは、独自のマーケティング活動を行っています。当社の販売活動やブランド力に各社のマーケティング力が加わることで、1プラス1が2以上の成果につながることを期待しています。8~9年前までの「アセット・ヘビー戦略」から現在の「アセット・ライト戦略」へ移行することができたのは、こうした背景がありました。2023年の実績を見ると、市場に投入したドライミックスとパテの半分以上は、自社工場で製造されたものではなく、パートナー企業からの供給によるものです。
    以上、ドライミックスとパテについてご説明しましたが、塗料・コーティングについても同じ取り組みを行っています。中国各地にはおびただしい数の中小メーカーが存在します。当社のブランドや技術に加え、一部の製造方法を共有することで各社と提携し、ともに成長することができます。ブランド力が役に立つと私が考える理由はここにあります。もしブランドの存在感が小さければ、当社と提携しようと考える企業は限られます。

    (若月)
    次に、市場シェアに関する2つ目の質問に回答いたします。TUC事業で10%の成長を目指すのであれば、年3%程度の市場シェア拡大を目指していくのか、という質問でした。

    (ウィー)
    2023年の業績を見ると、成長していないと考えられる市場でも、販売数量・価格ともに成長し、シェアが拡大したと考えています。各地でパートナーシップを締結した全ての企業とともに成長できれば、「Nippon Paint」ブランドがあってこその成長であるがゆえに、それは間接的な市場シェアの獲得だと考えることができます。
    年3%のシェア拡大を達成できるかどうかは現時点で分かりませんが、時が経てば明らかになるはずです。なぜなら、当社の戦略が成功していることは間違いないからです。当社は競合がいない市場で展開しているわけではありません。競合他社は非常に大きな競争力を保有していますが、当社の優先分野は主要な競争他社とは大きく異なってきています。当社は現在、TUC事業を強力に推進している一方、主要な競合他社の中には、TUB市場で成果を上げるべく引き続き取り組んでいる企業もあります。大手企業でさえ、異なるアプローチを採っています。
    もし中国のGDPが2023年、2024年も4%程度の成長を維持することができれば、当社はGDP成長率を上回ることができると考えていま。中国のGDP成長率が4%であれば、当社の成長率はその1.5倍から2倍になる見込みです。極めて厳しい市場であるものの、称賛に値する実績を達成できると確信しています。

    (若月)
    アナリストの皆様は、例えば市場シェアの27%や24%などの数字にとらわれないでいただければと思います。市場の定義が常に変わり続ける市場であるからであり、一貫した見解を示すことが非常に難しいためです。当社の市場に対する見方は変化し続け、販売数量も増え続け、市場シェアが拡大しているため、実際の数字は少し異なるかもしれません。

    (ウィー)
    市場シェアに関しては通常、推定するところから始まり、1年後に中国の塗料・コーティング業界が公式統計を発表して初めて、正確な位置付けを確認することができます。当社として今お伝えしているのは、市場の感触に基づいた当社の推定です。

質問者:BofA証券株式会社 榎本尚志氏

  • A1 (ウィー)
    話題の中心が中国事業になりがちですが、当社グループの事業拠点は世界各地に適切に配置されており、NIPSEAグループについても例外ではありません。当社グループの主力は建築用事業であり、連結売上収益の64%を占めます。建築用は当社が最も得意とする事業領域であり、業績は極めて安定し、通常の場合はキャッシュを最も生み出しやすいほか、当社のブランド力を最大限に活用し、大きな成長が期待できる分野です。戦略的に建築用にやや重点を置いていますが、それ以外の分野を軽視しているわけではありません。
    ご承知の通り、売上収益の12~13%は自動車用が占めています。自動車業界は、コロナ影響やサプライチェーンの混乱、部品不足による落ち込みから回復し、特に2023年は自動車生産台数が拡大傾向に転じ、特に日本ではOEM車の生産増が追い風になりました。当社グループの事業構成は、建築用、自動車用、その他の工業用で構成されています。
    グループの事業構成についてお話したのは、当社が実際は極めて多角的な経営を実践していることをお伝えしたかったからです。投資家の皆様とのミーティングでは、ほぼ3分の2の時間をNIPSEA中国の話題に費やす場合が多いですが、当社グループは中国以外の地域にも力を注ぎ、着実に成功を収めているため、今回中国以外の事業にも注目いただき、感謝いたします。
    NIPSEAグループの多角経営は、1つのエンジンやシリンダーが適切に機能しなくても、他のシリンダーが回転する仕組みになっているため、グループ全体では毎年の成長を期待することができます。時には部門ごとの成長速度にばらつきが生じることもあるものの、全体的には常に一貫して市場の成長に寄与しています。
    中国以外のNIPSEAグループで注目すべきは、インドネシアのPT Nipsea社とトルコのBetek Boya社です。
    インドネシア事業の収益性がかなり高いため、解釈に迷う投資家もいるようです。「この高い収益性は持続するのか?」という問い掛けに対しては、当然のように好調の維持に期待していると答えますが、なぜインドネシア市場の利益率は大きいのでしょうか?
    2022年のミーティングでも述べたように、40年前のインドネシア市場の利益率は決して高くありませんでした。その後の繰り返される経済危機を切り抜けたのは、収益性の継続的な確保を重視する合理的な企業であり、足元では大手数社がほぼ同じ水準の利益率を維持しています。つまり、インドネシア市場では合理的な論理が働いていて、消費者と市場に価値を提供することに重点が置かれてきました。競合企業が相手を打ち負かし、シェア争奪に躍起になっている市場ではないのです。
    当社がインドネシア市場で成功しているのは、成長を続ける市場であることに加え、当社のブランド力が強いためです。整備された流通網と優秀な経営陣の存在も成功の要因です。
    さらには、当社が目標としているマーケット・リーダーが存在していることも重要であり、しかもその企業が上場しており、彼らの業績数値などをベンチマーキングすることができています。当社とマーケット・リーダーとの差は縮小しつつあり、マーケット・リーダーに追い付くためには必要なポジショニングを確保することができています。
    当社が近くマーケット・リーダーを追い抜くとは断言できないものの、両社の格差は確実に縮小しています。過去3~4四半期の比較では、当社がマーケット・リーダーを上回る成長を遂げています。市況の見通しは良好ですが、インドネシア市場の特徴は合理性です。全プレーヤーが合理性を維持し、消費者に高い価値を提供し、利益を上げ続けられることを期待しています。
    インドネシア事業は魔法のように成長してきたのではなく、適切な判断で長所を生かし、流通網の構築に努めてきた結果です。顧客のニーズは現在、多様化しています。少ない製品のみを提供する企業であれば、インドネシア市場で成功することは極めて難しいでしょう。インドネシア市場はまだ大きな伸びしろがあり、当社としてはさらに躍進していきたいと考えています。
    トルコ事業の状況はインドネシアとは全く異なります。第3四半期の決算説明会で若月が説明した通り、超インフレ会計の適用によって為替調整後の決算数字に影響を与えており、売上収益は増加する方向に、営業利益は減少する方向に作用しています。
    しかし、こうした状況下でも、当社はトルコの成長を確信しています。ハイパーインフレの環境では、できるだけ早くコストを転嫁しようとするため、売上収益の伸びを数字だけで判断すると誤解につながる可能性があります。
    トルコ市場において当社と競合他社の業績を比較してみると、過去3年間で当社のシェアは拡大した一方、競合する上場企業2社のシェアは後退しました。経済環境が厳しいトルコ市場で、当社は着実にシェアを拡大しています。
    NIPSEAグループとBetek Boya社は短期的な視点ではなく、常に長期的な観点から適切な取り組みを進めてきたためであり、当社は引き続きブランドを構築しながら、他の市場とは異なる「マルチブランド戦略」に取り組んでいきます。マルチブランド戦略では、まずBetek Boyaを高級、Faworiを中級、Tempoを低価格帯ブランドとそれぞれ位置付けています。
    トルコでは、ETICS(断熱材)事業が大きな成功を収めています。強力な流通網を活用すれば、塗料・コーティング製品とETICSの双方を販売することができます。トルコ事業全体の売上収益に占めるETICS事業の割合は20~25%と決して小さくなく、事業の重要な柱となっています。

質問者:みずほ証券株式会社 吉田篤氏

  • A1 (ウィー)
    インド事業はこれまでしばらくの間、当社グループの連結範囲外にあったため、あまり話題に上りませんでしたが、インド当局の承認を経てインド事業が再び当社グループに加われば、今後の議論のテーマになってくるかと思います。
    インドの事業範囲を南部からその他の地域に拡大するかどうかについては、まず南部市場における建築用事業が議論の焦点になります。その理由は、当社よりも規模が大きい競合他社が数社存在するためです。
    当社は約8年前、本格的に取り組めば株主価値をより多く生み出せると考え、インド市場への参入を決めました。まず大規模な州である南部タミルナドゥ州に焦点を絞り、進出することにしました。「インド全土ではなく、たった1つの州で事業を展開しても業績が伸びないのでは?」という意見もあるかと思いますが、タミルナドゥ州だけで建築用塗料市場の規模は約3億米ドルと、実にシンガポール市場の6~7倍の水準に上ります。インドでは、1州だけでの事業展開でも決して小規模とは言えません。
    インドでは当社よりもはるか以前から強固な地盤を築いている巨大な競合他社が存在しているため、当社はまずタミルナドゥ州に限定してゼロから事業基盤を築くことにしました。この結果、現在ではタミルナドゥ州の建築用塗料市場でシェア2位に上り詰めました。当社は3~4年前に同じく南部に位置するカルナータカ州への進出を決めました。タミルナドゥ州と同様に集中的な市場攻略を進めた結果、シェア2位の座を確保し、トップ企業と張り合うレベルまで躍進することができました。
    タミルナドゥ、カルナータカ両州以外の建築用市場への進出も視野に入れつつありますが、喫緊の課題ではありません。他州での事業を拡大するより、まずタミルナドゥ、カルナータカ両州で確固たる地位を築き上げることが当社にとっての優先課題です。さらに優秀な組織の力がなければ、競合他社との競争に打ち勝つことはできません。また、他州で事業を成功させるために、事業につながる組織力の強化が不可欠です。
    しかしながら、インドの他地域で当社の存在感が希薄ということではありません。他州でもそれなりに存在感を示していますが、パートナー企業(colleagues)に市場シェアの確保などをそれほど求めていないという状況があります。もしかすると、当社はパートナー企業(colleagues)を正当に評価していないのかもしれません。「インド市場のその他地域(ROI)」として一括りにしていますが、成長を維持していますし、インド市場全体としてもご承知の通り、ここ数年で急成長を遂げています。
    このように、市場の成長と当社の存在感の向上が、インド建築用塗料事業の拡大につながると考えます。
    インドでは、他の2事業(自動車補修用と工業用)が好調に推移していることも特筆すべきポイントです。自動車補修用は、インド国内だけでなく国外でも事業を展開し、業績を伸ばしています。工業用は2023年におそらく売上・利益の数項目で過去最高を記録する見通しです。建築用、自動車補修用、工業用の3分野ともに、2023年はかなり好調に推移したと考えています。
    中国、トルコ、インドネシアなどの既存事業に加えて、インドをテーマに説明してきましたが、当社グループはここ数年の間にAlina社をはじめとする数多くの買収を手掛けてきました。インド市場でも、大きなニュースではないものの、特に自動車補修用において既存事業を補完・強化を目的とする「ボルトオン買収」を進めており、成長を続けています。豪州のDuluxGroup社も最近、ポリウレタンとSAF(密封剤・接着剤・充填剤)事業を補強するべく、イタリアで密封剤や接着剤などの製造・販売を手掛けるNPT社を買収しました。
    インド事業は、これらの他の買収とともに、2024年のグループ成長をけん引していく見通しです。インド事業の買収は、DuluxGroup社を買収した時のような大型案件ではありませんが、「アセット・アセンブラー」モデルに基づく取り組みの信頼性を高める事例の1つと考えています。

  • A2 (ウィー)
    どのような場合であっても、もっと行うべきことは出てきますし、何か不足があれば既に取り掛かっています。当社としては、常にいつでも動ける体制を整えておくことが肝心です。インドで改めて事業に取り組むに当たって、特に建築用では当社グループが有する既存の強みを活用しています。
    インドで提供する建築用製品には現在、純粋な塗料・コーティングだけではなく、「Selleys」ブランドのSAFやNIPSEA中国が販売する防水製品、多数のフロアコーティング製品も含まれています。5年前に比べ、はるかに多様な製品を市場に投入しています。
    塗料・コーティングだけでは一部の需要にしか対応できませんが、軽量の建設化学品(CC)やSAFとともに提供することで、より完全な形で市場のニーズに応えることが可能になります。インドは他の市場に比べ、色彩に関して少し大胆な色合いが好まれやすいという点で、極めて「カラフル」な市場と言えます。インドが大胆な色彩を強く好む市場であっても、「マジック・ペイント」やテクスチャーに関する限り、当社が中国で実践している取り組みをインドにも導入することで、非常に強力なカラー(色)戦略を推進することができます。
    インド市場で提供する製品は現在、順調に成長しています。より多くの知識と経験を積み重ねていくことで、当社に不足している部分を補うことが可能になると確信しています。

質問者:CLSA証券株式会社 張一帆氏

  • A1 (ウィー)
    その他の地域、特に先進国を話題として取り上げていただき、ありがとうございます。ただし、先進国の1つでありながら、日本事業が話題にならないことも不思議に感じており、日本事業についてもこの機会に説明いたします。
    低成長のイメージが強い日本市場において、当社は2023年に8%を超える成長を達成しています。先進国としては決して低い成長ではなく、収益性も回復しています。これらの現状を踏まえ、アナリストの皆様が再び日本事業に注目してくれることを期待しています。
    豪州はニュージーランドと併せてDuluxGroup社(DGL)が管轄しており、欧州と太平洋の2部門で構成されています。DGL欧州がJUB社とCromology社などを買収したことによって、欧州市場で10億米ドル近い売上収益を確保しました。
    欧州はコロナ影響後の落ち込みから回復しつつあります。コロナ禍に伴う外出規制の期間中は塗料需要が増えていましたが、規制解除とともに塗料消費は落ち着きました。足元では欧州市場も回復基調をたどり、半年以上前から明るい兆しが見え始めてきました。
    当社は、欧州事業が引き続き市場平均を上回る成長を続けると予想しています。先進国の成長は全体的に鈍化する見込みですが、欧州と豪州で事業を展開するDuluxGroup社は2023年に市場成長を上回り、10%台の成長を確保すると見通しています。
    米国では、自動車用と建築用の2事業を展開しています。建築用は、高金利が市場に影響を与えたと推測され、逆風がやや強まりました。2022年は好調なマージンだったのもの、米国の建築用は全般的に市場主導型であるため、足元は少し減速しています。2024年については、景気後退に陥らない限り、2023年よりもやや楽観的に見通しています。当社の米国事業はカリフォルニア州などの南西部に拠点を置いているため、天候が事業に与える影響についても念頭に置いています。
    米国の自動車業界は販売台数が回復したことに加え、労働組合のストライキも収束したことから、自動車メーカー各社が2023年末までに需要に対応するための増産体制に入り、2022年よりも好調な状況で1年が終わる見込みです。
    先進国全体では、ご指摘の通りの逆風が吹いていますが、当社はこれまで築き上げてきた地位を堅守しています。

    (若月)
    時間が迫っている中で最後に付言するならば、当社の事業は全てEPS成長に寄与していると考えてください。成長が低迷する地域を含めた全市場で、当社はEPSを生み出しています。DuluxGroup社は太平洋地域を中心に順調な成長を維持しており、EPSを生み出す典型的な一例です。当社グループにおいては、一部の事業でアジア地域ほどの成長ができていなくても、EPS成長がそれによって引きずられることはありません。「アセット・アセンブラー」としての当社のストーリーに沿った話題ではないものの、最後に補足的にコメントしました。

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