「統合報告書2023」説明会 質疑応答要旨

質問者：参加者A

• Q1 貴社の統合報告書は毎年楽しみに読んでおり、特にシングルマテリアリティの統合報告書としては最高レベルと評価している。毎年投資家との対話の内容をしっかりとフィードバックしながらも、貴社としての哲学は一貫して反映されており、好感を持っている。2023年度版では、「株主価値最大化（MSV）」による把握がしっかりしている点、各題材も個別・具体的に記載されている点が非常にありがたいと感じる。
  要望としては、「アセット・アセンブラー」モデルではPMIが非常に重要と考えている。確かに成長性は大事である一方で、連結ベースのROICの推移は継続して記載して欲しい。
  2023年度版では個社ROICの記載はあるものの、例えば過去数年で買収した会社のROICの推移やWACCとの比較、あるいは業績不調なパートナー会社に対するレビューがあると、「アセット・アセンブラー」モデルが本当にうまく機能しているかどうか投資家として分かりやすくなる。1つずつを読んで集計した上で対話するのは大変であるため、1記事にまとめて記述して欲しい。

  A1「アセット・アセンブラー」としてのM&A戦略ついては、ご指摘の通り、PMIがポイントであり、リスクとコストが低いことが特徴です。バリュエーションはかなり低いもの、つまり初年度からEPSに貢献することを固い基準としています。
  直近のカザフスタンのAlina社を例にPMIについてご説明すると、元々トルコのBetek Boya社がカザフスタンに進出しており、現地の流通に関する知見を持っていました。その上で、Alina社のメンバーとは、買収価格だけを巡って交渉するのではなく、Alina社の今後の成長可能性を継続して議論してきました。こうした議論によって現地の経営陣との信頼感が生まれ、このようなウェットな関係に基づく検討が現地でできているからこそ、買収後も認識のずれが生じることがなく、優秀な経営陣が辞職せずに継続して活躍することにつながっています。
  「アセット・アセンブラー」モデルについては、2022年度版と比べてM&Aに比重を置いた記述にしたため、「自律・分散型経営」や「信頼」を基軸としたM&Aの進め方など、「人材・組織」に関連する要素が少し見えにくいという声もいただきました。2024年度版では、そうした声を踏まえて改善していきたいと考えています。
  ROICを巡っては、直近でも共同社長の若月とディスカッションしています。2023年度版の発行後も含め、従来以上に投資家の皆様との議論が活発になってきている認識です。4月に開催予定の新中期経営計画説明会や2024年度版の発行のタイミングなどで皆様とのディスカッションを深めていきたい考えです。

質問者：参加者B

• Q1 貴社の統合報告書は大変面白く、一番好きな統合報告書だと評価している。他社の形式整備しがちな統合報告書と比較すると、自社を目一杯アピールしており、投資家からの要望もきちんと織り込まれている。
  他方、特色ある点の評価とは矛盾するものの、外部評価機関の評価基準を参考にしながら一度形式整備を行うのも良いのではないか？統合報告書自体が優れていても、外部評価機関の評価では減点されているケースも散見することから、あえて形式整備を戦略的に行い、外部評価を獲得しにいくことも提案したい。

  A1当社としても国内外の外部評価基準は参考の1つにしながら、統合報告書を制作しています。しかしながら、統合報告書はあくまでも投資家の皆様にとって真に役立つものであるべきと考えており、共同社長の若月自身も外部評価を得ることが目的になってはならないと考えています。形式整備とのバランスを取りながら、より両輪で対応していきます。

• Q2 外部評価機関の評価項目には「一義的な情報開示をしているか？」といった項目がありがちであるが、貴社はグループ統一のKPIが設定しにくい部分があり、どうしても減点されてしまう傾向があると感じている。

  A2特にサステナビリティに関しては、2020年から連結で対応を進めてきているものの、最初の2年間は「トップダウン型」で、2022年からは「自律・分散型」で進めています。取り組みはまだ途上ではありますが、今後も5つのサステナビリティチームと協議していきたいと考えています。

質問者：参加者C

• Q1 2023年度版では個社ROICに関する説明がなされたが、連結ROICが低下していることへの説明が弱い。2024年度版では、新中期経営計画説明会などでは補足しきれない定性情報を記載して欲しい。具体的な手の動かし方などの具体的な情報があると理解が進むと考える。

  A1ROICは社内でも重要な事項として認識し、議論しています。今後も資本市場の皆様との双方向のコミュニケーションを継続し、新中期経営計画説明会や2024年度版において、皆様からのご期待に添えるような説明ができるよう目指していきます。

質問者：参加者D

• Q1 2023年度版の内容は質が高く、誰が読んでも事業モデルの理解が進むものだと思うものの、投資家からの評価は「企業価値」や「株価」に最も現れると考える。貴社が目指す資本市場とのコミュニケーションの内容は、現状まだ投資家にしっかりと伝わっていないのではないかと推察する。特に事業ポートフォリオに占める中国事業の割合やROIC対して丁寧な説明を続けていくことによって、徐々に企業価値や株価に反映されるのではないか。

  A1先ほど「中国銘柄の事業会社と思われないように」とご説明しましたが、連結売上収益の約35%を中国事業が占めていることは事実であるため、中国事業だけに注目しないで欲しいと当社が説明しても、伝わり難いことは理解しています。
  中国事業も当社グループを構成する重要なアセットの1つと考えている一方、資本市場の見方とはやや乖離しているとも認識しています。ROICと同様に、中国事業についても資本市場の皆様の理解に資する素材や説明を提供していくことで「株価」、ひいては「MSV」につながると考えています。

質問者：参加者E

• Q1 他の参加者の評価と同様に、2023年度版を読むと中期的な方向性がよく理解できて、四半期ごとの取材も必ずしも必要ではないとの印象を抱くほど、非常に勉強になる。
  IR協議会の審査員を務めているが、化学メーカーの中からも大賞候補になる企業が出てきている。一般的なファンドマネジャーからすると素材は分かりにくいカテゴリーではあるものの、貴社は投資家に向けてさまざまな対話を実践しており、投資家としても一緒になって頑張っていきたいという所感を持った。

  A1これまでは、中国市場の成長に合わせて、中国事業比率の高い当社への期待感が良くも悪くも高かったと理解しています。今後はどこに注目すれば良いのか？というご質問をいただく機会がありますが、当社は特定の地域・事業に偏った戦略は採用せず、個別アセットを積み上げながらEPSを増やしていく方針です。
  MSVや株価に貢献していくためには、外部評価機関による評価も参考にしながら、投資家の皆様の理解や安心感、信頼感につながるような材料の提供が必要と理解しています。業績のトラックレコードの提示を含めて、皆様とは引き続き積極的にコミュニケーションを図っていきたい考えです。

質問者：参加者A

• Q1 コーポレート・アイデンティティの観点から貴社を見ると、捉えにくさを感じる。日本ペイントという日本の会社である一方で、NIPSEAグループの文化や考え方が非常に強く出てきており、貴社の文化や歴史が分かりにくい印象を持った。
  「変化に対して人は変わっていくべき」というのがシンガポールという国の考え方だと思うが、貴社の人材に対する見方は、そのようなシンガポールの考え方がベースにあるのではないかと推察している。今後統合報告書で人的資本の記述を充実させる際は、そうした考え方を大々的に押し出した方が、貴社に対する理解が本質的に深まるのではないか？

  A1持株会社としての当社はアセットの積み上げを志向していますが、実際の事業を担う現場では当然、2023年度版でも記載の通り、「人こそが事業成長の原動力」であり、通常の事業会社と変わらない部分があります。この辺りの説明の仕方、切り分けも含めて整理していきたい考えです。

質問者：参加者B

• Q1 今回の参加者の顔ぶれを見ると、説明会がなくても統合報告書をしっかり読む方が参加している印象を受ける。可能であれば、日頃は統合報告書を見ていない方をターゲットにしてポイントを解説する説明会としたら良いのではないか？また、投資家が実際に統合報告書を読み始める前のタイミングで、ポイントを解説する説明会を開催してもらえると効果的だと思う。

  A1ご指摘の通り、説明会は本来、統合報告書の発行後なるべく早い時期に開催すべきと認識しています。2024年は統合報告書の発行自体も早める計画ですので、説明会も早めの開催を目指していきます。