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2026.10.20

塗料の状態から塗膜の発色性を評価できる新手法を開発 ― 塗料開発の時間・コスト・環境負荷の削減に期待 ―

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2026年10月20日
国立大学法人東京大学大学院工学系研究科
日本ペイントホールディングス株式会社

塗料の状態から塗膜の発色性を評価できる新手法を開発 ― 塗料開発の時間・コスト・環境負荷の削減に期待 ―

発表のポイント

  • 塗料の状態から最終的な塗膜の発色性を評価する手法を開発。
  • 複数の成分が混在する塗料中でも、顔料粒子の凝集状態を選択的に捉えることに成功。
  • 塗膜を作製してから評価する従来の工程の省略につながり、開発時間やコストの削減に加え、材料やエネルギー使用量を抑えることで環境負荷の低減が期待される。
塗料中の顔料粒子の凝集状態を評価
塗料中の顔料粒子の凝集状態を評価

概要

東京大学大学院工学系研究科の太田誠一准教授らと日本ペイントグループの国内事業の支援や研究・開発等に関する業務を担う日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社の小林笙太朗研究員らの研究グループは、遠心Field-Flow Fractionation(注1)を用いて、塗膜を形成する前の塗料中における顔料粒子の凝集状態を評価する手法を開発しました。

塗料中の顔料粒子の分散状態は、最終的な塗膜の色や外観品質を左右します。しかし、塗料には樹脂や分散剤など多様な成分が含まれるため、顔料粒子の凝集状態を選択的に評価することは困難でした。本研究では、粒子を質量の違いに基づいて分離する遠心Field-Flow Fractionationを用いることで、複雑な塗料中でも顔料粒子の凝集状態を選択的に評価することに成功しました。さらに、その凝集状態の違いが塗膜の漆黒性の差につながることを明らかにしました。本手法により、塗膜作製前に塗料の発色性を評価でき、塗料開発における試作・評価工程を効率化し、開発期間やコスト、材料・エネルギー使用量、廃棄物の削減につながることが期待されます。

なお、本成果は2026年7月22日(現地時間)に米国化学会誌「Langmuir」のオンライン版に掲載されました。

発表内容

研究の背景

塗料中の顔料粒子の分散状態は、塗膜の色や外観品質を左右する重要な要因です。そのため、優れた外観をもつ塗膜を開発するためには、顔料粒子の凝集状態を適切に評価し、配合条件を最適化する必要があります。しかし、塗料には顔料だけでなく、樹脂や分散剤などさまざまな成分が含まれているため、顔料粒子のみを選択的に捉え、その凝集状態を直接評価することは困難でした。そのため従来は、塗膜を作製して発色性を評価し、その結果をもとに配合を調整する工程が繰り返されてきました。こうした試作と評価には時間や材料を要することから、塗膜を作製する前に顔料粒子の凝集状態を評価できる新たな手法が求められていました。

研究内容

本研究グループは、粒子を質量の違いに基づいて分離する遠心Field-Flow Fractionationを用いることで、樹脂や分散剤など複数の成分が混在する塗料中から、顔料粒子の凝集状態を選択的に高感度で評価することに成功しました(図1)。

図1:塗料性能の評価系
図1:塗料性能の評価系

黒色塗料の顔料粒子として、カーボンブラック(注2)が広く用いられています。これらの塗料では、カーボンブラックの含有量が同じであっても、分散剤の種類によって塗膜の漆黒性が異なります(図2a)が、その違いの要因は、これまで明らかになっていませんでした。一般的な凝集評価手法である動的光散乱法(注3)では、異なる分散剤を用いた2種類の塗料に含まれるカーボンブラックの状態に明確な違いを見出すことができませんでした。一方、遠心Field-Flow Fractionationを用いて分析したところ、漆黒性の低い塗膜となった塗料において、カーボンブラックの凝集が検出されました(図2b)。この凝集は、クライオ透過型電子顕微鏡法(注4)による観察でも確認され、遠心Field-Flow Fractionationによる評価の妥当性が示されました。これらの結果から、塗膜を作製する前の段階で、塗膜の発色性に関わる顔料粒子の凝集状態を評価できることが示されました。

図2:(a)異なる分散剤AまたはBを用いた塗料A、Bより得られた塗膜の外観。(b)塗料AおよびBの遠心Field-Flow Fractionation測定結果。各塗料について3回測定を行った(A-1、2、3およびB-1、2、3)。
図2:(a)異なる分散剤AまたはBを用いた塗料A、Bより得られた塗膜の外観。(b)塗料AおよびBの遠心Field-Flow Fractionation測定結果。各塗料について3回測定を行った(A-1、2、3およびB-1、2、3)。

本成果は、塗膜形成前の塗料段階で発色性を評価する新しい塗料開発プロセスにつながることが期待されます。塗膜の試作回数を減らすことができれば、開発期間やコストの削減だけでなく、塗料や基材などの材料使用量、乾燥・硬化に必要なエネルギー、廃棄物の削減にもつながります。これにより、塗料開発の効率化とともに、環境負荷の低減や持続可能なものづくりへの貢献が期待されます。

本研究は、東京大学と日本ペイントホールディングス株式会社との産学協創協定に基づき設置された社会連携講座「革新的コーティング技術の創生」の共同研究テーマの1つとして推進されました。

発表者・研究者等情報

東京大学 大学院工学系研究科

  • 太田 誠一 准教授
  • 中村 乃理子 助教
  • 大塚 彩加 博士課程
  • 土屋 裕輝 博士課程

日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社

  • 小林 笙太朗 研究員
  • 岩越 あや子 研究員

論文情報

雑誌名 Langmuir
題名 Sensitive Detection of Pigment Particle Aggregation in Paints via Centrifugal Field-Flow Fractionation
著者名 Ayaka Otsuka‡, Hiroki Tsuchiya‡, Noriko Nakamura, Shotaro Kobayashi, Ayako Iwakoshi, Seiichi Ohta* (‡ These authors contributed equally)
DOI 10.1021/acs.langmuir.6c01568
URL https://doi.org/10.1021/acs.langmuir.6c01568

用語解説

  • (注1)遠心Field-Flow Fractionation:
    流路内の粒子に遠心力とこれに直行する流れ場を加え、質量の違いに基づいて粒子を分離する分析手法です。質量が大きい粒子ほど、溶出時間が長くなります。
  • (注2)カーボンブラック:
    炭素を主成分とする黒色の粒子で、塗料やインク、ゴムなどの着色に広く用いられています。
  • (注3)動的光散乱法:
    液体中を動く粒子から生じる散乱光の時間変化を解析し、粒子の大きさを測定する手法です。複数の成分が混在する試料では、それぞれの成分を区別して評価することが難しい場合があります。
  • (注4)クライオ透過型電子顕微鏡法:
    試料を急速に凍結し、その内部構造をできるだけ保持した状態で観察する電子顕微鏡法です。

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