M&A戦略
M&A基本方針
当社のM&Aの基本的な方針は、「アセット・アセンブラー」モデルにおける3つの優位性である①低ファンディングコストのメリットを十分に活用できる力、②持株会社の介入によらず、アセット会社のEPS寄与を維持・拡大する力、③当社の経営モデルに共感する世界中の優秀な経営クラスのタレントを惹き付ける力、を駆使してM&Aを推進することです。これらの基本方針をもと、当社が現在、塗料・周辺分野でM&Aを推進しているのは、リスク・リターンの優位性が高い市場であるためです。
塗料市場の過半を占める建築用市場は地産地消のビジネスであり、原材料の調達や消費者の嗜好、販売ネットワーク、環境規制に至るまで、国や市場ごとにビジネスモデルが大きく異なります。また、塗料は代替製品の脅威が低いことに加え、特に建築用塗料においては地域特性が強いことから、①強いブランド力、②充実した流通網、③現地に精通したオペレーションの確立、などが成功の鍵となります。したがって、これらをベースに市場シェアNo.1を獲得すれば、競合他社による逆転は容易ではなく、No.1の会社は市場シェアをさらに伸ばして収益を享受できるなど、好循環サイクルを生み出すことが可能です。
- 塗料・塗料周辺事業の特長
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地産地消型ビジネス 各国・地域で異なる顧客ニーズ
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高い参入障壁 少ない上位ブランドが市場を占有
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塗料周辺にも魅力的な市場がいくつも集積 塗料製品に加えて、周辺製品をワンストップで提供
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※1 出典:Fortune Business Insights
※2 出典:ReportLinker
※3 出典:European Commission Paper
人口増加や都市化の進展により、
建築用塗料を中心に今後も持続的な成長が期待できる
![塗料市場の成長率](/ir/assets/images/management_policy/ma-strategy/img_growth_market.png)
出所:ACA-published Global Market Analysis for the Paint &Coatings Industry(2019-2024), https://paint.org/market
注記:各国・地域の合計値は2019年の市場規模予想
「アセット・アセンブラー」モデルにおける当社グループのM&Aの具体的なポイントは下図の通りであり、①業態や地域にとらわれずリスクの低い安定収益事業でMSVに資すること、②強いブランド・優秀な経営陣を擁すること、③初年度からEPSへのプラス貢献が見込まれ、適切なリスク・リターンが得られること、を重視しています。2014年以降に当社が買収した主要パートナー会社のパフォーマンスは、高成長国・成熟国のどちらの市場でも高い成長を遂げています。
今後もM&A案件の成功実績(トラックレコード)を数多く積み上げることで、M&A対象企業に対して、当社グループ傘下に入ることのメリットを幅広く伝えていく一方、株式市場に対しても、当社が今後も継続的に高いEPS成長が可能な企業であるという期待値を醸成していきます。
M&A戦略のポイント
ターゲット ![]()
① 事業領域 : 塗料(建築用・工業用)、塗料周辺、さらにその周辺
② 対象地域 : 特定せず
③ 対象企業 : 強い企業・製品ブランド、優秀な経営陣を擁する企業
① 塗料・塗料周辺に代表されるリスクの低い安定収益事業
② MSVに資する案件であれば地域は不問。ただし、物理的に遠距離の地域は慎重に検討
③ 3つの優位性を生かし、継続的にアセットを積上げ当社の強み ![]()
① 財務健全性
② 日本という安定通貨・安全市場での調達力
③ 当社グループのプラットフォームのフル活用
④ 自律・分散型経営における優秀なマネジメント
① 安定したキャッシュ創出力、強固な財務基盤
② 低金利で借入れ、株式市場の安全性・流動性
③ グループ間でノウハウ・製品・技術を共有
④ PMIリスクの最小化財務規律 ![]()
① EPSへの貢献
② ROIC※1>WACC※2
③ 十分なレバレッジ余力を維持
④ 負債調達が優先だが、資本調達も選択肢
① 初年度からのプラス貢献を目指す
② 資本効率性も考慮
③ 財務健全性の確保、今後のM&A案件への備え
④ 資本調達においてもEPSへの貢献は不変
※1 : 投下資本利益率(一過性費用調整後)
※2 : 加重平均資本コスト
M&Aの選定プロセス
M&Aの選定プロセスは下図の通りです。まず、ターゲット候補となる企業のロングリストを作成した上で、優先順位を付け、実現可能性に関して検討しながら、今後どのようなタイミングでどういう提案でM&Aを実現していくかなどの具体的な議論を進めます。
ターゲット選定に当たっては、「MSVに資するかどうか」を唯一の判断としており、例えば、「売上世界No.1になりたい」などの規模だけの議論、あるいは「社長として大きな実績を作りたい」といった経営者のエゴや思惑などが入る余地は一切ありません。当社にとっては、仮に売上世界No.1になったとしても、そこに至るまでの過程で株主価値を毀損するようでは意味がないのです。
具体的な検討に当たっては、魅力的な案件であったとしても、常に「健全な警戒心」を持ってパートナー会社グループを中心としたPMIや、さまざまなリスク度合いを多角的に議論した上で判断しています。「アセット・アセンブラー」モデルで重要な人的資本に関しては、現地マネジメントからのコミットメントやサクセッションプランなど、リスクを極小化する仕組みを取り入れています。
特に重要なのは、初年度からEPSにプラス貢献することを財務規律の1つに据えていることであり、いたずらに買収シナジーを正当化し、買収3年後にEPSがプラスとなればよしとするような楽観的な想定は組んでいません。
当社が実施する価値計算においては、「PER」や「EV/EBITDA」などだけではなく、案件を実行した結果として当社グループのバランスシート上での余裕をどこまで求めるのかなどの点を同時に検討しています。
![M&A選定プロセスのフロー図](/ir/assets/images/management_policy/ma-strategy/img_process_flow.png)
既存事業と買収会社の双方に成長をもたらすプラットフォーム
「アセット・アセンブラー」モデルのプラットフォームの強さは、買収を実施した後に、既存事業、M&A対象会社の双方に成長シナジーをもたらし、買収以前よりも高い収益成長を実現することにあり、欧米型の単なるコスト・カット・シナジーとは一線を画します。
日本企業による海外M&Aでは、買収実施後の数年内に減損を計上する事例が少なくない中、当社ではM&Aを本格化した2019年度以降、全ての案件で想定以上の結果を出しています。これは、当社のプラットフォームが奏功している証左であり、その要諦をご説明します。
共同社長は現地マネジメントと常にコミュニケーションを重ねた上で、彼らの実績や成長意欲を含めて「信頼」できると判断してから、結果責任とセットで権限を委譲し、現地決裁によるシンプルかつ迅速な意思決定プロセスを採用しています。本社からマネジメントを派遣すれば、現地との溝ができやすく、上位のマネジメントを日本人で固めれば、現地の優秀な人材のモチベーションが低下しかねません。
本社がすべきことは、現地の優秀なマネジメントによるオペレーションを支援することであり、共同社長と直接相談できる関係の構築に加え、成長投資のための日本円ベースの資金調達や「NIPPON PAINT」ブランドの活用、パートナー会社間で自律的に連携可能なプラットフォームを提供しています。もちろん、重要な子会社に対するガバナンスは共同社長も担った上で、一定額以上の資本支出や社長クラスの報酬や選解任については本社が担います。当社プラットフォームの強さは、MSVの実現という共通の目標を目指す仲間が、必要に応じて国境を越えて助け合うだけでなく、成熟国・新興国での成長施策や、既存・新規事業からのブランド・ノウハウ、原材料購買などをパートナー会社間で積極的に共有することができる一方、本社から押し付けられることなく、自由に取捨選択できる点です。このように、信頼と結果責任を組み合わせることで、既存事業とM&Aの両輪で成長することが可能になっています。
したがって、成長を志向する現地マネジメントであれば、自身の経営手腕をいかんなく発揮することが可能となるため、当社グループへの加入に関心を持つ企業は増え始めています。
パートナー会社への強固な「信頼」に基づく自律・分散型経営
国内外のパートナー会社に対する「信頼」をベースに、権限委譲と結果責任を組み合わせた経営体制「自律・分散型経営」のもとで、各地域のパートナー会社が相互に連携・協同しながら、自律的な成長を追求しています。
![パートナー会社への強固な「信頼」に基づく自律・分散型経営の概略図](/ir/assets/images/management_policy/ma-strategy/img_partner_visual.png)
M&Aトラックレコード
①業態や地域にとらわれずリスクの低い安定収益事業でMSVに資すること、②強いブランド・優秀な経営陣を擁すること、③初年度からEPSへのプラス貢献が見込まれ、適切なリスク・リターンが得られること、をポイントに2014年以降に当社が買収した主要パートナー会社のパフォーマンスは、高成長国・成熟国のどちらの市場でも高い成長を遂げています。
![Dunn-Edwards](/ir/assets/images/ir/t3Bayrt7g.png)
Dunn-Edwards
- 2017年
374億円 - 2022年
657億円
+47.2%
![DuluxGroup](/ir/assets/images/management_policy/management_model/img_logo_duluxgroup.png)
DuluxGroup
塗料周辺事業
- 2019年
1,349億円 - 2022年
2,066億円
+53.2%
![Betek Boya](/ir/assets/images/ir/ke2-y9t7g.png)
Betek Boya
塗料周辺事業
- 2019年
288億円 - 2022年
705億円
+144.7%
![PT NIPSEA](/ir/assets/images/ir/XjCasrtnR.png)
PT Nipsea
自動車用塗料など
- 2020年
303億円 - 2022年
523億円
+72.7%
![NIPSEA](/ir/assets/images/ir/XjCasrtnR.png)
NIPSEAグループ
(2014年連結化、
2021年100%化)
自動車用塗料・
工業用塗料など
- 2014年
2,365億円 - 2022年
7,085億円
+199.6%
![Vital Technical](/ir/assets/images/ir/InT-y9t7R.png)
Vital Technical
![Cromology](/ir/assets/images/management_policy/management_model/img_logo_cromology.png)
Cromology
No.2(フランス、ポルトガル)
- 2021年
1,091億円 - 2022年
1,173億円
+7.6%
![JUB](/ir/assets/images/ir/6iq3UARW8b4sQ9fUHVQtzj.png)
JUB
塗料周辺事業
- 2021年
1,091億円 - 2022年
1,173億円
+7.6%
![中国自動車用連結子会社5社](/ir/assets/images/ir/XjCasrtnR.png)
中国自動車用
連結子会社5社
![NPT](/ir/assets/images/management_policy/ma-strategy/img_npt_logo.png)
NPT
※買収時と現在では、会計基準が異なる場合、市場シェア算出に関わる各種前提条件が異なる場合があり、買収時比の値は概算値
※市場シェアはNPHD推計
※Dunn-Edwardsの2017年の業績は、2017年3月の買収完了後の10ヵ月分を記載。買収時比の値は、2018年度の業績を用いて算出
※2021年のCromology、JUBの業績はプロフォーマ値。また2022年のJUBの業績は、12か月分を表示(プロフォーマ値)。為替レートは1EUR=138.5円を適用