⽇本グループの構造改⾰の進展と収益性改善への道筋

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取締役 代表執⾏役共同社⻑ ウィー・シューキム
取締役 代表執行役共同社長 ウィー・シューキム

日本グループの収益性の改善は、最も重要な経営課題の1つであり、共同社長のリーダーシップのもと、従来にはない手法や施策で構造改革に取り組んでいます。
当ページでは、取締役 代表執行役共同社長のウィー・シューキムが、日本グループの構造改革の進展と今後の収益性改善への道筋についてご説明します。

構造改革の進捗と成果

日本グループの収益性が2017年以降に低迷した根本的な原因は、2015年に実施した「分社化」による弊害であるというのが、日本グループの経営陣の共通認識です。各市場に特化した事業別(自動車用・汎用・工業用・表面処理・船舶・持株会社が統括する調達)の組織に分社化するアイデアそのものは優れていたものの、市場競争力を考慮して導入しなかった結果、日本グループ全体のコスト構造の肥大化や、機能の重複、煩雑な業務プロセスを招きました。
日本グループの売上収益は全体で1,900億円規模ですが、パートナー会社1社当たりでは400億円程度にとどまり、それだけでは個社として十分に設備やシステム、人材に投資する余裕はありません。分社化によって各事業がそれぞれ自前の製造設備や物流、倉庫などを抱えた結果、非効率な事業運営や採算性の悪化によって事業損失が発生し、人材育成や老朽化した設備などへの適切な投資が十分に行えなくなるという悪循環に陥りました。根本的な原因への認識が一致した上で、現在・将来の顧客ニーズに即応可能な組織の中核機能を維持しながら、こうした問題に対処するべく、まずは8つのタスクフォースを立ち上げ、生産・品質、販管費などのテーマごとに課題を抽出し、改善策を検討・実行しています。


  • テーマ タスクフォース(TF) 主な成果
    生産・品質 1. NPAU Production TF
    (自動車用)
    • 内製工場の稼働率向上と生産性改善によるコスト低減
    • 物流配送の効率化と保管費の削減
    • 間接業務の効率化による労務費の削減
    2. NPTU Production TF
    (汎用)
    • 生産系子会社の再編・統合を完了し、管理コストを合理化
    • 生産・物流プロセスの見直しにより、人的生産性と経費生産性を改善
    • 次世代生産・物流機能を担うコア人材の教育訓練を開始
    3. NPIU Production TF
    (工業用)
    • 製品別生産工数の分析により、非効率生産品の生産性改善検討を開始
    • 工場から計上される全経費の自動可視化を完了
    • 委託生産品の内作化を遂行
    販管費 4. NPIU & NPMC SG&A TF
    (工業用・船舶用)
    • NPIUとNPMCの共同で販管費の合理化を実施
    • NPIUとNPMCの営業・管理部門の一部機能共有化による合理化
    • NPMCのサプライチェーン・マネジメント費用の合理化
    5. NPAU SG&A TF
    (自動車用)
    • 複数の部門を統合するなど業務の集約や合理化で、人件費率・販管費率を低減
    • 生産・営業に分離された販売物流機能を統一し、業務プロセスを改善
    • 技術・人事・総務などの分野でNPCSとの重複業務を見直し
    6. NPTU SG&A TF
    (汎用)
    • 関連会社の統合・再編に伴う連携強化と管理効率化
    • グループ内人員数の適正化と再配置
    • 販売価格改定による収益確保
    財務 7. BSC TF
    (原価管理の高度化)
    • 原材料単価の上昇影響を製品ごとにICTツールで可視化
    • 予算運営と標準原価管理の紐付けを強化し、各製品に反映(ユーティリティコスト上昇などの経営環境変化に対応)
    調達 8. NPMJ TF
    (調達)
    • 原材料の調達リスク情報と互換原料情報を可視化し、調達リスクを低減
    • 他のパートナー会社と製品戦略と調達品種戦略を互いに共有し、実効性の高い施策を遂行。原価低減活動の加速と収益拡大に寄与


タスクフォースはあらゆる階層の従業員で構成していますが、アクションプランを実施して最初に判明したことは、既存のルールに縛られず、かつ権限委譲した上で課題解決に取り組めば、ほとんどの難題はいずれ解決できるというものでした。つまり、上下関係に縛られたトップダウンの企業文化が、従業員の潜在能力を発揮する機会を阻害していたということです。また、日本ペイントコーポレートソリューションズ(NPCS)を新設し、サプライチェーン・生産拠点・人材開発・研究開発・財務・監査など、日本グループ全体の課題に対して横断的に対応する機能部門に位置付けることで、パートナー会社の縦割り構造を打破しています。
つまり、NPCSは事業に特化した国内パートナー会社の潜在能力を引き出すとともに、日本グループの効率性を高める役割を担っています。構造改革に伴う組織の再編には、必然的に職務の大きな変更や廃止が伴います。2022年に実施した希望退職制度「ネクストキャリアプラン」では、従業員が公平に扱われるよう特別な早期退職金や次のキャリアへの斡旋などを提供しました。
事業面では、主要なリーダー陣による各分野のコスト要因を深く分析したことに加え、幅広い階層の従業員が適切な財務情報に入手可能となったことで、リーダー陣は説明責任への意識を高め、数多くの改善点を見出しました。特に2022年は原材料価格が高騰し、一層のコスト削減だけでなく、顧客からの値上げ要請に伴う製品への価格転嫁に対応する覚悟も必要だったことから、この構造改革はまさに絶好のタイミングでした。コスト削減や契約更新時以外のタイミングで販売価格を調整することができたことこそが、リーダー陣のマインドセット変革の明確な現れです。
日本グループはまだ多くの課題が残されているものの、2022年に実施した構造改革を足掛かりとしながら2023年以降も取り組みを継続し、2017-2018年当時の営業利益率への回復を目指すことにより、持続的なEPSの拡大に貢献していきます。

日本セグメントの業績推移

日本セグメントの業績推移

※1 2017年度は日本基準の数値(2018年度以降はIFRSの数値)
※2 旧セグメントの船舶用事業は海外を含めず(日本のみ含む)。新セグメントでは海外も含む
※3 特別退職金約22億円を含めず


変革への影響を注視し、コミュニケーションを強化

日本グループでは、変革に伴う影響にも目を向けながら、従業員エンゲージメントの向上に取り組んでいます。日本ペイント労働組合が2022年度末に実施した調査によると、従業員満足度は81%にとどまり、2年連続で低下しました。こうした結果を踏まえ、従業員のやる気を引き出す組織の見直しをより一層進めながら、活躍できる場を提供し、努力に報いる報酬を設計するなどの取り組みを実施しています。共同社長をはじめとした経営陣からの積極的な発信に加え、パートナー会社単位で実施する対話の活発化など、コミュニケーションを強化しています。

ウィー共同社長と従業員との対話
ウィー共同社長と従業員との対話
従業員満足度

船舶用・自動車用事業における改革の進展

日本グループの船舶用事業と自動車用事業は改革当時、赤字に転落していたため、喫緊に取り組むべき課題でした。両事業に共通するのは、グローバルで事業展開する顧客を持ちながら、グローバルな顧客サポート体制や事業モデルが構築されていなかったことです。両事業とも適切な営業拠点を設置する一方で、日本のコスト構造や非効率な事業運営に対処する必要があるものの、各事業で主とする課題が異なっており、課題解決にはそれぞれで取り組んでいます。

船舶用事業

船舶用事業では、日本のコスト構造や人材配置に対応するため、工業用事業との一体運営に舵を切り、両事業の経営資源を結集しました。日本ペイント・インダストリアルコーティングスのシニアリーダーやNIPSEAの事業リーダーを招聘し、改革を進めています。
日本では、配合コストや価値提案の観点から「新造船」と「保守・修理船」の比率や顧客ごとの製品ポートフォリオを慎重に見直しました。営業のリーダー陣は、コスト構造を的確に把握することで、製品値上げの実行に結び付けています。こうした2022年の取り組みは、日本の船舶用事業が2023年に黒字化を達成する布石になると確信しています。
一方、グローバル・サプライチェーンに関しては、高いサービスを顧客に提供するべく、塗料・コーティングやシーストックの供給網を通じた迅速な供給体制を一から構築する必要があり、現在、その体制整備を進めています。
グローバルな船舶用事業としては、NIPSEAのシニア・マーケティング担当者が日本の担当者と協力しながら、新しいマーケティング資料や販売ツールを作成し、国際的な海事展に出展する準備を進めています。日本以外では、中国・台湾・シンガポール・香港における組織合併や、マレーシア・インド・インドネシアのNIPSEAへの統合、韓国の規模縮小・再構築を実施するなど、海外の関連会社を矢継ぎ早に再編しました。

こうした取り組みによって、船舶用事業全体で2022年に数年ぶりとなる営業黒字を達成したことで、塗料会社に期待される厳しい環境基準を満たした真にグローバルな組織への確信を得ることができました。

自動車用事業

日本の自動車用事業については、市場シェアの低下や営業赤字に陥り、コスト構造や技術面などで多くの課題を抱えていました。技術面では、NIPSEAの自動車用事業のCTOをトップに据えて技術部門全体を再編する一方、過去の慣習に縛られないエネルギッシュな若手日本人リーダーに多くの権限を委譲して、対応しました。これらの変革により、特に重要と位置付ける次世代カーボン・ニュートラルの取り組みにおいて主導権を握っているという点は、非常に喜ばしく感じています。当初から技術面に焦点を絞ったのは、当社が主要な競合他社に出遅れており、顧客に対して営業と技術サービスを統合した全く新しいアプローチが必要であると認識したためです。そこで、顧客中心主義をさらに徹底し、新しい製品設計プロセス(DR+)のもとで、営業リーダーが対象市場におけるコストや製品仕様について説明責任などを全て負う体制としました。自動車用事業の「生産・品質」と「販管費」のタスクフォースでは、これまで分散していた事業所やオフィスから効率性を引き出すべく取り組んでおり、単なる部門・拠点の寄せ集めではなく、全体を1つの会社として運営できるようにしています。また、他の国内パートナー会社から自動車生産工場に人材を相互派遣することで、さらなる相乗効果を期待しています。

日本の自動車用事業の営業損失は、2022年に大きく縮小しました。今後、新たな設備などへの投資や、フィルム事業のグローバル化に伴う事業コストの増加に加え、事業再編に伴う影響などはあるものの、2023年には黒字転換できる見込みです。



企業文化の変革や従業員の意識改革に向けて

日本グループには長い伝統と輝かしい歴史があるものの、急速に変化する市場環境に対応し、近年の行き詰まりから脱却するためには、仕事に対する取り組み方を変える必要がありました。「J-LFG(日本版LFG)」は企業文化を変革するための行動指針として導入しており、職場においてあるべき行動を促すことで、全ての従業員が精力的・積極的にビジネスに取り組むことを目的としています。「J-LFG」は、日本のリーダー陣や従業員の意見を幅広く取り入れ作成したもので、従業員の成長・スピード・効率性を巡るマインドセットの変革を促しています。「J-LFG」はかつて日本グループで実施した「サバイバルチャレンジ」によるコスト削減策とは発想を全く異にするもので、成長投資の要素を強く打ち出しています。その真意とは、俊敏性や成長に適した引き締まった身体を想起させる「筋肉質(Leanness)」という要素と相まって、あらゆる階層の従業員が、成長を続けるために無駄な業務を見直し、自分の役割を果たせるようリソースを確保するとともに、全従業員の活力を引き出すことにあります。
私は、職場で実践されている「J-LFG」のフィードバックや事例から、多くの従業員が「J-LFG」の意義を理解し始めていると実感しています。新たな企業文化の定着には時間を要するものの、企業のDNAとして「無駄のない成長」を浸透させるべく一丸となって取り組んでいきます。こうして創られる他社にはない企業文化を競争優位性として市場で発揮していきたいと考えています。



持続的なEPS成長に貢献するリーダーの育成

「J-LFG」に基づく企業文化のもとで持続的にEPSを拡大するには、競合他社に打ち勝つための斬新かつ魅力的な提案を常に顧客に提供することが必要です。日本グループは世界中のパートナー会社から、既成概念にとらわれない発想やイノベーション、手法をオープンマインドで取り入れています。現状を打破しようとする姿勢や建設的な異論を唱えることは、日本グループの従業員やリーダー陣、日本社会の行動特性とは必ずしも一致しないかもしれないものの、変化には勇気が必要なのです。日本グループのリーダー陣には勇気を持って行動することを求めており、リスクを回避しようとする消極的な従業員の姿勢を改めるべく、合理的かつ戦略的なリスクを取れる環境、心理的安全性を常に確保してあげなければなりません。リーダー自身が自らの行動でマインドセットの変革を示し続け、あらゆる階層の従業員の意見に耳を傾けることで、こうした環境はいずれ定着するはずです。こうして若いリーダー陣を育成することで、狼のようなハングリー精神を持つ起業家精神(J-LFG)が浸透し、全従業員による成長への飽くなき追求心が事業の推進力となり、そうなれば日本グループの成長はもはや止まらなくなるはずです。リーダー陣は全従業員の手本となるべき存在であり、競合に打ち勝つ労働環境を整備する責務があります。多くの従業員がこうした変革が起きていることを確信するには時間を要するものの、その間に従業員へのトレーニングや教育を強化していきます。将来を担う人材を育成するための暫定的な措置を講じるため、この1年間でNPCSとパートナー会社の人事部門の連携を強化し、複数年にわたる取り組みを推進しています。




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