投資家の皆様に認識してもらいたい当社の潜在的な投資魅力
当社の経営上の唯一のミッションであるMSVの実現に向けた取り組みは、今後も変わることはありません。私の主たる役割である「PERの最大化」に向けては、投資家の皆様からの信頼をよりいっそう高めていくことが重要ですが、これは何も特異な施策によるものではなく、いわゆる「株価を意識した経営」と同義だと考えています。株価はEPSとPERの掛け算で決まるため、PERを意識することは、当社の成長力を市場から適切に評価してもらうことに他なりません。したがって、「株価を意識した経営」は当社にとって何ら特別なことではなく、日常的かつ根幹的な取り組みとなっています。
それでは、投資家の皆様に認識してもらいたい当社の潜在的な投資魅力とは何なのか?――1点目は、「EPS積み上げマシーン」としての当社の姿です。当社はコロナ禍やサプライチェーンの混乱、原材料価格の高騰などの外部環境の逆風にもかかわらず、5年連続でEPSを増加させる成果を上げ、M&Aにおけるトラックレコードを着実に継続してきました。これは、「アセット・アセンブラー」としてのオーガニック、インオーガニックの双方にわたる実績に他ならず、「持続的なEPSの積み上げ」にこだわる当社姿勢の安定的かつ長期的な成長の確からしさを示すものです。
2点目は、当社の「エゴなき経営スタイル」です。当社は取締役会においてミッションであるMSVが通底しており、私やウィー・シューキム氏などの経営者個人の思惑に左右されることはありません。実際、当社ほど純粋にMSVを追求している経営は他になかなかないと自負しています。また、現時点では私とウィー・シューキム氏による共同社長体制がベストな選択であることを取締役会として判断しているわけですが、経営の属人性を排除することで、将来的にもシステマチックにサステナブルな経営基盤を確立している点が、当社の明確な強みとなっています。
3点目は、「ノーリミットな成長」と「リスクを抑えた安全性」の両立です。各地域・事業は厳しい経営環境下でも底堅く成長しており、今後も持続的な成長は十分に実現可能です。これに加え、健全なリスクテイクに基づく合理的かつ安全なM&A戦略を通じて、「持続的なEPSの積み上げ」を実現しています。特に、2024年10月に発表したAOCの買収はその象徴的な事例であり、当社の「アセット・アセンブラー」戦略が確固たるものであることを示しています。
もちろん、中国リスクなどに対する市場不安を緩和していくことや、M&Aのトラックレコードを今後しっかりと積み重ねていくことも肝要です。継続的な実績のデリバリーがもたらす「経営への信頼」をベースに、投資家の皆様に当社の成長イメージをより明確にご理解いただけるよう努めていきます。
「アセット・アセンブラー」モデルの成果が結実した1年
2024年は、3年という時間軸にとらわれない長期視点でMSVを追求する「中期経営方針」を策定した転換の年となりました。中期経営方針では、オーガニック、インオーガニックの両面から「持続的なEPSの積み上げ」に注力していく中、毎年毎年を勝負の年と捉え、短期的な業績向上にもコミットしています。こうした中期経営方針に基づき取り組んだ初年度として、2024年はMSV実現に向けた確かな成果を収めることができました。
オーガニックの側面では、世界経済の成長鈍化に伴う厳しい市場環境にもかかわらず、当社の高いブランド力や技術力などを武器に底堅く成長し、各地域・事業で市場シェアを維持・拡大することができました。売上収益、営業利益ともに過去最高を更新し、EPSも増収増益効果により5年連続の増加となりました。こうした成果は、当社グループの事業モデルが着実に機能している証左です。例えば、中国事業は依然として市場環境の好転が見込みにくい状況下ではあるものの、実績として着実に利益成長を果たしており、引き続き魅力的な事業と位置付けています。今後も世界経済に相応の厳しさが続くとしても、各パートナー会社の中期成長予想は過去のトラックレコードの範囲内にあり、中期経営方針で掲げる目標の達成は十分可能と考えています。
インオーガニックの側面では、AOCの買収発表が2024年最大の成果として挙げられます。AOCは買収初年度からEPSの大幅な積み上げに寄与する案件であり、当社が掲げる買収基準に完全に合致しています。投資家の皆様に訴求してきた「アセット・アセンブラー」戦略における“インオーガニック・ストーリー”を具体的に示し、このモデルの真の価値を明確に示すことができたのは、大きな成果であったと考えています。
当社の“インオーガニック・ストーリー”を体現したAOCの買収
中期経営方針にて進化した「アセット・アセンブラー」モデルにおいては、塗料・コーティング分野やSAF(密封剤・接着剤・充填剤)、CC(建設化学品)などの周辺分野(Paint++)に限らず、ローリスク・グッドリターンであれば地域・事業・規模を問わず「ノーリミット」でMSVの実現を長期視点で追求しています。当社は取締役会の議論でも、M&Aをバリエーションが高騰する塗料分野に限定してしまうと、M&Aが目的化してしまい、採算性が乏しい案件に飛び付き、高値づかみしてしまうリスクを認識しました。
一方、インオーガニックの経験を積み重ねていく中で、当社がプラットフォームとして持つ強みも次第に明確になってきました。それは、①鋭敏なリスク感覚と良質なターゲットの精緻な見極め、②自律性とアカウンタビリティの維持、③当社グループ入りした人材のモチベーションの維持・向上、④低ファンディングコストの積極的な活用、の4つです。これらの要素を核として、「買収先の良さやブランド・文化を壊さない」、「エゴなきM&A」を実行する経営姿勢が、当社のインオーガニックの戦略全体を支えています。
AOCの買収は、こうした“インオーガニック・ストーリー”に基づき、厳しい基準を満たして実現した案件となります。具体的には、①買収初年度からEPSに大幅なプラス貢献が見込め、事業リスクが低く、高い収益性を有すること、②スタンド・アローンでの成長力が十分に見込まれること、③優れた経営陣を擁し、当社グループの傘下で長期的な視点での価値創造にこだわっていること、④高いキャッシュ創出力と相まって、財務規律を十分に守れること、などの点を考慮した結果となります。
AOCは米国・欧州市場でリーディングポジションを確保しており、優れたビジネスシステムや少ない設備投資負担を背景に高い収益性とキャッシュ・フロー創出力を有しています。これまで複数のプライベート・エクイティ傘下で規律ある利益成長を遂げてきたAOCが当社グループに参画することで、数年単位でのエグジットを意識することなく、真に長期視点でさらなる価値創造を追求してもらえると確信しています。
買収プロセスに際しては、ウィー・シューキム氏やゴー・ハップジン氏とともに、CEOのジョー・サリー氏をはじめとする経営陣と密な対話を重ねてきました。その中で私たちが最も意識したのは、どうすれば当社がAOCにとっての「良き株主」になれるのか?という点です。それをAOCの経営陣に理解してもらうべく、AOCへの訪問や面談を繰り返す中でMSVの理念や「アセット・アセンブラー」の考え方を伝え、信頼関係を構築してきました。その結果、当社経営陣とAOCの経営陣が互いに優秀なパートナーと認め合えると確信し、ジョー・サリー氏を中心とした経営陣が今後も経営に当たり、AOCのさらなる成長を導いていくことを確認して買収が実現しました。
当社グループにとっては、2019年にDuluxGroupを買収して以来の大きな柱を構築するものであり、「アセット・アセンブラー」戦略を象徴する成果と言えます。
AOCクラスの良質なアセットをコンスタントに積み上げ
AOCの買収は当社のM&Aにおける競争優位性を象徴する事例となりましたが、AOCの買収はゴールではありません。むしろ、MSVに貢献するローリスク・グッドリターンを確保できる案件であれば、今後も継続的に実行していく方針です。この点については、一部の投資家の皆様から「M&Aはリスクが高いのではないか?」という懸念をいただくことがあります。実際、リスクのないM&Aは存在しません。しかしながら、当社は「経営者のエゴ」を排し、純粋にMSVの観点から緻密な検討プロセスを経てM&Aを実行しており、非常に慎重かつ安全性の高いものになっている自負があります。
まず、独立社外取締役を中心に構成された取締役会において、投資家視点を加味しながら徹底的な議論を重ねています。そのため、執行による無謀なリスクテイクを防ぎつつ、健全なリスクの選択と価値創造を両立するバランスの取れた意思決定を行っています。経営の判断軸が「MSV」という共通言語で統一され、それが深いレベルにまで浸透している“Integrityある経営集団”だからこそ、こうしたリスクを回避しながらも慎重で、高度かつ迅速な経営判断を可能ならしめています。そして、こうした緻密な検討プロセスこそが、当社におけるM&Aの強さ、安全性の源泉となっています。
さらに、当社のM&A戦略が持つもう1つの強みは、強固な財務基盤に裏打ちされている点です。当社は強力なキャッシュ創出力を維持しており、当社のアセット・ポートフォリオは基本的に全てのパートナー会社が自律的に成長し、安定したキャッシュを生み出すことができる状態にあります。AOC買収後のレバレッジ水準についても、ネット・デット/EBITDA倍率は2026年末までにほぼ2023年末と同じ水準の2.2~2.4倍に戻すことができる見通しであり、競合他社のトラックレコードと比較しても、財務の健全性は十分にあると考えます。
なお、当社はこうした安全性の高い健全なリスクテイクを前提としながらも、十分なEPSの拡大が見込まれる局面においてはエクイティファイナンスも視野に入れ、「EPS積み上げマシーン」としてアップサイドを上限なく追求していく考えです。株式と負債をバランスよく調達し続けることで、今後もAOCクラスの良質なアセットをコンスタントに積み上げていくことができると考えています。こうした点を視野に入れれば、当社における少数株主利益の保護の重要性をなおいっそうご理解いただけるものと思います。
「小さな本社」の強みを生かし、自律的な成長とグループ連携を促進
当社は「自律・分散型経営」のもと、各パートナー会社の優秀な経営陣に対して自律性とアカウンタビリティを付与しながら、自律的な成長を促しています。各パートナー会社を「日本ペイント化」するのではなく、彼らが持つ独自の強みを尊重しながら、自律的な成長のために必要なプラットフォームを惜しみなく提供することに焦点を当てています。つまり、資金力や技術力、ブランド力、販売網、購買力などの経営リソースを活用できる環境を整備・提供することで、当社グループ傘下でよりいっそうの価値創造を可能としています。
塗料・周辺業界は、地産地消の傾向が強く、各国・地域ごとの市場特性や需要を深く理解した現地経営陣に経営を任せた方が、高い価値創造につながります。そのため、中央集権的な管理体制ではなく、「小さな本社」として各パートナー会社を支援する柔軟で分散的な体制を整えています。こうした「自律・分散型経営」により、各パートナー会社は独立性を保ちながらも、当社プラットフォームを活用しながら自律的な成長を遂げることができるのです。また、当社プラットフォームを活用したグループ連携も、優秀な経営陣の自律性を尊重する延長の中で、自由闊達に行われています。例えば、既にAOCの購買担当者は当社グループの関係部門と積極的な連携に動き出しており、CEOのジョー・サリー氏ともグループ全体で成長機会をともに徹底追求していく考えを共有しています。
また、AOCが持つ優れたビジネスシステムは、他のパートナー会社の経営陣にも良い刺激を与えており、互いに学び、良いところを吸収し合う環境が生み出されています。
当社グループの強みは、こうしたグループ連携を本社である当社が主導するのではなく、各パートナー会社が主体的、自発的に取り組んでいる点にあり、本社は必要に応じて支援する役割のみを担っています。こうした「自律性」と「アカウンタビリティ」の両立を重視する経営姿勢は、各パートナー会社のモチベーションを高め、優秀な人材を惹き付け、結果として当社グループ全体の持続的な成長を実現する原動力となっています。
MSVの追求を通じたサステナビリティの実現
サステナビリティに対する当社の考え方も一貫しています。それは、サステナビリティ自体を目的化するのではなく、あくまでMSVに資するサステナビリティを重視していることです。MSVは、顧客や取引先、従業員、金融機関、政府などのステークホルダーへの責務の充足を大前提としており、サステナビリティの実現も重要な責務の1つです。こうしたサステナビリティを巡る基本的な考え方は取締役会でも繰り返し議論しており、当社グループ全体の共通認識として徹底・共有されています。
今、社会から企業に求められるサステナビリティの内容や基準は刻々と変化をしており、1つ対応を誤ればEPSやPERにも影響を与えかねません。それゆえ、当社はそうした外部環境の変化に機敏に対応するべく、積極的に情報を収集し、具体的な施策を講じています。その一環として、2024年には気候変動への取り組みを強化するため、炭素の測定や削減、改善の取り組みを各パートナー会社で共有し、温室効果ガス排出量削減を目指す枠組みを整えました。2025年にはこうした枠組みを実践的に運用し、温室効果ガス排出量のスコープ1,2の改善に加え、スコープ3におけるデータアプローチの高度化・改善を進めていきます。NIPSEAグループではスコープ1,2排出量を2021年比で15%削減する目標を掲げるなど、「自律・分散型経営」を通じて気候変動対策を強力に推進していきます。
こうしたサステナビリティの取り組みを通じてEPSやPERへと結び付けていくことで、最終的にMSVの実現へ寄与させていきたい考えです。
当社の「MSVジャーニー」は今後も続く
AOCの買収は「アセット・アセンブラー」戦略の大きな可能性を示す第一歩となりました。経営上の唯一のミッションであるMSVの追求は、これからも続きます。オーガニックにはアセットの潜在力を最大限に引き出し、M&Aにおいてはリスクとバリエーションのバランスをしっかりと見極め、いずれもEPSの積み上げに寄与させていきます。そして、確固たる実績のデリバリーを果たし、正しい将来期待の醸成をもって当社経営に対する期待値を高めることで、「PERの最大化」を目指していきます。
そうした中、投資家の皆様とのコミュニケーションの充実がMSVの実現にとって肝要であり、当社の成長イメージをより明確にご理解いただきたいと考えています。ステークホルダーに対する責務は有限である一方で、株主価値のアップサイドは無限です。その追求を唯一のミッションとしている当社にご期待いただくとともに、引き続きご支援のほど、よろしくお願いいたします。